陽だまりのねごと

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フクシノヒト  役所てつや 案 ・ 先崎綜一 著

2007-01-08 10:41:21 | 
フクシノヒト

文芸社

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フクシノヒトってカタカナタイトルがポップな表紙に踊っていて
まちがいなく明るい話と踏んで図書館で借りてきた。
原案のヒトが居て、小説に書き上げたヒトが居て
『U_30大賞』30歳以下を対象にした、原稿がなくても応募可能な文芸賞を
受賞しているんだそうな。

フクシノヒトは役所の生活保護課のヒトの事だった。
一浪して入った大学を無事卒業して、公務員試験に合格して、
ホワイトカラーとしての生活が始まると思った23歳の主人公が
役所の嫌われ部署である保護課に配属になって、
世の底辺といわれるヒトたちを知って、カルチャーショックから
立派なフクシノヒトになるまでの1年のものがたり。

役所の配属はころころと本人の気持におかまいなく
事務系のヒトは昨日、税務課、今日、いきなり保護課なワケで、
主婦時代にコープの荷分けの後のお茶ダベリングタイムに
実際に保護課配属になった夫の嘆きしゃべっている妻が居た。

確かに好きでフクシを志したわけでない。
お上の配属に従ったまでで、条例、規則どおりの仕事をこなせばいいって
態度もいたしかたないのかもしれない。

ものがたり上の上司や同僚がみんな
その辺りのツボとフクシのココロのツボを押えた人物で
かつ、主人公がまことに素直な良識人なんで
ちゃんと一人前にフクシノヒトに育ってゆく
明るく健全なしあがりになっている。

熱くなるな。
もやもやは酒でその日のうち流せ。
手持ちのトランプカードは決まっているのだから
どの札を自分が引くかって言う選択肢しかない。
引くのはこれこれと決まっているのだから
そこにないカードに迷うことはいらないし
引いたのは自分だから後悔しない…

実に深いアドバイスをタイムリーにもらう。
うらやましい~まぁ~小説ですから。

生活保護はいろいろと問題含みで、
今、高齢受給者も増えて
国は保護にかかるお金を地方自治体に押し付けてきている。
だんだんと申請しても簡単にOKとはいかなくなった。
そしてもし孤独死した人が保護却下例だったりしたら、
役所への世間の風あたりが強くマスコミが書き立てる。

確かに、
介護保険の利用料も医療費も住宅費も葬式代も
全部、保護を受けるとタダになる。
障害年金より保護費は多いし、
1割負担になった障害者よりはるかに優遇されている。

ちゃんと諸条件を満たした人が
『健康で文化的な最低限度』の保障を受けられる。
受けられない人はその最低限度の保障すら門前払いになる。
住所のないコトで生活保護からもれるホームレスの人にも触れてあった。

制度自体がどうなのよってとこは
役所の人間も人間だから感じて苦しい。

ものがたりの最初の出てくる
異臭と汚物のボロアパートの一室でアル中の瀕死のヒト。
描写のなまなましさに
そうなのよ、そうなのよ、ほんとうにあるあるとうなずいてしまった。

いったい何年かかったらこうなるのと言う
年代物の汚物の山をまずていねいに片付けて、
生活空間を確保してからでないと援助不能なケースに
訪問ホームへルパー時代に何件か遭遇した。
事務所に帰ったら、シャワー室へ直行。
まるでハードのスポーツをしてきた様相。
おもいっきりシャワーを浴びても取れないような匂い。
会社のロッカーにはいつも着替えが入っていた。

しょっぱなのレアケース洗礼は、
なかなか上手いものがたり構成になっている。

キタナイ、正しい、こうでなくっちゃ!
それはあなたの持つ価値観であって、人それぞれ。
端から見て信じられない生活も
本人にはなっとくいく快い生活なのだ。
体を蝕む不衛生との境目はどのあたり?

ヒトをちゃんとヒトとして認めて接する。
書いてしまえばキレイ事。
利用者本位、利用者ニーズに添ってと
ケアマネくんの教科書にも載っている。
簡単で簡単にいかない。

いろんな人の生き様に接して、
自分の持っていた価値観の一切に疑問を持ちはじめる辺り
人生50年過ぎて、ようやくそんな気になってきたワタクシ。
主人公の23歳の若造にココロヨク負けている。

これが若い人の思いなら日本の未来は明るいわ~
でも、ちゃんとこの話には
迷子にならないようにサイドを固めくれて
お手本になる立派な大人が登場してていたっけ。
う~~んむむむ~