上海阿姐のgooブログ

FC2ブログ「全民娯楽時代の到来~上海からアジア娯楽日記」の続きのブログです。

映画『君たちはどう生きるか』中国で公開~劉昊然など人気俳優を起用した中国語吹替版

2024年05月02日 | エンタメの日記
スタジオジブリのアニメ映画『君たちはどう生きるか』が2024年4月3日に中国で公開され、5月1日現在までに興行収入7.76億元(約155億円)を上げています。日本での3月時点での興行収入90.8億と比較すると、日本の約1.5倍に相当します。

中国語タイトル『你想活出怎样的人生』は「君たちはどう生きるか」のほぼ直訳となります。
本作の英語タイトルは「The Boy and the Heron」(少年とアオサギ)です。先に公開された台湾や香港では、英語タイトルの「少年とアオサギ」をもとにした『蒼鷺與少年』という中国語タイトルとなっています。


興行収入7.76億元(約155億円)というのは、中国ではそれなりのヒットです。
中国の映画市場の規模は大まかにいうと日本の約5倍なので、日本市場での感覚に換算すると30億円超えのヒットに相当します。

~最近中国で公開された日本アニメ映画の興行収入ランキング~(2024年5月1日現在)
「すずめの戸締まり」   8.07億元(約160億円)2023年3月24日公開 2023年通年ランキング20位
「君たちはどう生きるか」 7.76億元(約155億円)2024年4月3日公開 2024年通年ランキング暫定6位
「THE FIRST SLAM DUNK」6.6億元(約132億円)2023年4月20日公開 2023年通年ランキング25位

「君たちはどう生きるか」は中国で大健闘しており予想を上回るヒットとなっています。
まず、4月3日から清明節の3連休に合わて公開されましたが、同時期にめぼしい新作がほとんどなかった(他に『ゴジラxコング2』くらいしかなかった)ことがプラスにはたらきました。

日本では事前に情報を出さない、前宣伝をしないという珍しい手法が取られましたが、中国では2つのキーワードを全面に出した宣伝が行われ、ターゲット層にうまくリーチしたのではと思います。
宣伝キーワードの一つは、「第96回アカデミー賞長編アニメーション賞受賞作品」であることです。
アカデミー賞の発表が2024年3月10日だったので、中国公開の3週間前にちょうどよく「アカデミー賞受賞」という強力な宣伝材料ができました。
近年中国映画が米アカデミー賞の有力候補に挙がることはほとんどありませんが、中国人は米アカデミー賞に無関心というわけではなく、むしろ相当の権威として捉えられています。

もう一つは、「宮崎駿人生の映画 別れの作品」というキャッチコピーがつけられ、宮崎駿監督の人生を総括した映画であること、そして最後の作品であることが強調されました。
中国語タイトルは『你想活出怎样的人生』で「人生」という単語が含まれています。キャッチコピーの「人生」というキーワードと重なっており、マーケティングが上手いと思いました。
中国で多く使われた宣伝素材。オスカー受賞のロゴが入っています。キャッチコピーのフォントサイズが大きいので「人生告別」が映画のタイトルだと勘違いしている人もいました。


吉野源三郎作の小説「君たちはどう生きるか」の中国翻訳小説も発売されており、小説タイトルはアニメと同じく『你想活出怎样的人生』。「アニメの巨匠宮崎駿監督の一生に影響を与えた小説」と宣伝されており、結構売れています。


豪華キャストによる中国版吹替版
「君たちはどう生きるか」は日本語原版で公開されていますが中国語吹替版もあります。吹替版には名だたる人気俳優が起用されています。
主役の11歳の少年・眞人の中国版吹替を担当したのは人気俳優の劉昊然(リウハオラン)です。
劉昊然(リウ・ハオラン):1997年生まれ、身長185cm、10代から活躍する人気俳優。爽やかなルックスで、若者らしい明るさと知的な一面を表現できる評価の高い俳優。ドラマ「琅琊榜(ろうやほう)〈弐〉〜風雲来る長林軍〜」、映画「唐人街探案」シリーズが有名です。
その他にも、青サギをコメディ俳優の大鵬(ダーポン/董成鵬)、ヒミを歌手の張含韵(ジャン・ハンユン)、父親の勝一とインコ大王をベテラン人気俳優・朱亜文(ジュー・ヤーウェン)、夏子を高圓圓(ガオ・ユエンユエン)、大伯父を陳建斌(チェン・ジェンビン)が吹替ています。

これはものすごい豪華キャストです。第一線で主役や重要な役どころを演じる大物俳優が大量に投入されています。
朱亜文(ジュー・ヤーウェン):1984年生まれ、ドラマ「大明皇妃」の皇帝役など地位のある重要な役柄を演じることが多い俳優。軍事・革命もの映画(主旋律映画)にも多く出演しています。
大鵬(ダーポン/董成鵬):1982年生まれ、元々はテレビ番組の司会者。自身が監督・主演したシットコム「屌丝男士」が大ヒットし、人気コメディ俳優となり多くの映画に出演。プロデューサーとしても有名。
陳建斌(チェン・ジェンビン):1970年生まれ、90年代から俳優として活躍する中国芸能界の大御所。キャリアが長く多数の出演作があります。「宮廷の諍い女(甄嬛伝)」で皇帝役(雍正帝)を演じています。
高圓圓(ガオ・ユエンユエン):1979年生まれ、2000年代から一貫して第一線で活躍する美人女優。2014年に俳優の趙又廷(マーク・チャオ)と結婚し、芸能人カップルとしても有名。
張含韵(ジャン・ハンユン):1989年生まれ、オーディション番組・第1回目「超級女声」で3位になり芸能界入り。中国芸能史において特別な意義を持つタレント。近年バラエティ番組をきっかけに再ブレイクしています。

英語版の吹替もイギリスの人気俳優ロバート・パティンソンが青サギの声を演じるなど、豪華キャストで制作されています。
台湾版は青サギを人気俳優のグレッグ・ハン(許光漢)が演じるなど、宮崎駿映画の吹替版を豪華キャストで作ることが世界的に流行っているようです。

3月28日に上海で中国公開を記念して試写会が行われ、ジブリの鈴木敏夫プロデューサーを招き、吹替を務める劉昊然(リウ・ハオラン)、大鵬(ダーポン)、朱亜文(ジュー・ヤーウェン)が登壇しました。




しかし、これほどの豪華キャストで制作された中国語吹替版は、映画館でほとんど上映されませんでした。95%以上が日本語版での上映です。
北京の映画館では吹替版を比較的多くスケジュールしていますが、北京でも吹替版の比率は10%くらいにしかならないと思います。
中国語版は字幕の読めない子どもにも理解しやすいようにという配慮から作られたはずなので、土日や郊外の住宅街に近い映画館で中国語吹替版が比較的多く上映されています。中国語吹替版を観るためには吹替版を上映している映画館をわざわざ探して、場合によっては郊外まで行かないと観ることができません。

「君たちはどう生きるか」の中国語吹替版を観みましたが、1997年生まれの劉昊然(リウハオラン)が小学生の少年役の吹替をするのは、ちょっと声のトーンが落ち着きすぎているように思いました。
名だたる俳優が吹き替えたメインキャラクターも良かったのですが、普通の声優が起用された脇役の老婆たちの声の演技もうまくて驚きました。
中国では人気俳優に頼らなくても、職業声優で吹替版を作る実力が十分あると思います。

2024年4月30日から中国では宮崎駿作品『ハウルの動く城』が上映されますが、こちらの吹替えキャストも豪華で、主役のハウル(日本語版は木村拓哉)を若手俳優の于适(于適/ユーシー、2023年公開の映画「封神」で一躍有名になった美形俳優)、ソフィーを人気若手女優の田曦薇(ドラマ「卿卿日常 」のヒロイン)が吹替えています。この二人は旬の若手俳優です。

日本のアニメ映画の中国公開は着実に増えており、4月30日から労働節休暇に合わせて『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』が公開されました。
6月15日には『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』も中国で公開される予定です。

  

「スパイファミリー」劇場版も中国語吹替版がありますが、こちらは俳優を起用するのではなく専門の声優をキャスティングしています。
中国ではベテラン人気声優として知られる、边江(ロイド)、李冠霖(ヨル)、山新(アーニャ)がメインキャストを務めます。
边江と李冠霖は多くの中国ファンタジー時代劇の吹替をしており、よくコンビを組んでいます。ドラマ「三生三世」の主役コンビ(ヤン・ミーとマーク・チャオ)の声を演じているのも李冠霖と边江です。
山新は中国語ボーカロイド「洛天依」の元音源の提供者であり、声優陣は中国声優業界ですごく実績のある方たちです。

にもかかわらず、中国語吹替の上映はやはり非常に少ないです。「スパイファミリー」は子どもも観るだろうし、もっと吹替版を上映すればいいのにと思うのですが、日本語版の方が集客力があると認識されているのでしょうか。
中国の声優、吹替のレベルは急速に向上しています。声優がタレント化するまでには至っていませんが、実績のある声優は不足しており、中国ドラマ、中国アニメ、ラジオドラマなどのニーズも多いので、吹替人件費は安くありません。
一方で、近年生成AIの活用が進んでおり、将来的に吹替えはAIで可能、むしろAIの方が低コストで優秀なのではという見方もあり、今後中国の「吹替」も成長の形を変えていくかもしれません。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« KING GNU アジアツアー「THE ... | トップ | 憧れのソウル・大学路に行っ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

エンタメの日記」カテゴリの最新記事