(半紙1/8×8枚)
「人間の真価はなにを為したかではなく、何を為そうとしたかだ。」
大学の頃、山本周五郎にはまっていて、その中でも一番印象深い小説
「虚空遍歴」(上下二巻)の中の一節。
旗本の次男、中藤沖也の端唄は独特のふしまわしで、もてはやされていた。
けれど沖也はそれに満足せず、真に人を感動させる本格的な浄瑠璃を作りたいと、
旅をしながら探し続ける。
やがて浄瑠璃の本場、大阪での無残な失敗に、深酒に溺れていく。
人生を芸の道と孤独な苦闘に賭け、悔いることなく人生を全うした男を通して
「人間の真価はなにを為したかではなく、何を為そうとしたかだ」と。
長編なのに、何度も何度も読んだ。
ぼろぼろになった本は、何人かの友人に貸して、そのまま行方不明に。
今日もまた木簡の臨書だけど、おおらかで伸びやかな木簡もあれば、
こんなきちんと大事に書かれた木簡もある。
原本を眺めていたら、ふと虚空遍歴の主人公、沖也を思い出して
人は、つい目に見える結果を求めたがるけれど、
周りが判断する「形」を体裁よくまとめて、誰かに評価されることを待つよりも
もっと泥臭くて、淡々と、ひたむきな思いを忘れずにいたいなぁ・・
(原本)