おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

読書「富士山コスモロジー」(藤原成一)青弓社

2014-06-02 22:52:40 | 歴史・痕跡
 2013年(平成25年)6月22日、「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」の名でユネスコの世界文化遺産に登録された。日本の文化遺産としては13件目となった。
 富士山は当初、自然遺産として登録を目指したが、ゴミの不法投棄などによる環境悪化や開発により本来の自然が保たれていないなどの理由で、文化遺産登録を目指す方針に転換。
 登録対象となった「構成資産」は山頂の信仰遺跡群や富士五湖などを含む25件。
 当初、ユネスコの諮問機関「国際記念物遺跡会議(イコモス)」は、富士山から45キロ離れた「三保松原」を対象から除くという勧告となった。最終的には富士山を駿河湾越しに臨む文化的価値が認められ、一括登録された。
 その後、「観光資源」としての富士山を大々的にアピールし、結果的には「自然」を売り物とする印象が強い。かえって自然破壊が進むのではないかと心配になる。
 この書は、2009年5月に発刊されたもの。本文中にもありますが、「自然遺産」としての登録ではなく、「文化遺産」として登録する方針を先駆的に主張した書。古代から現代に至るまで、富士山にかかわる思想・信仰・美学などを取り上げています。「宇宙観」「世界観」「人生観」「歴史観」、そしてその根っこにある「宗教観」を産み出してきた「富士山」。
 時には火の神、時には水の神・・・。人々に恵みを与える一方で畏怖の念を与え続けてきた「富士」。そこには、「富士山」と対峙する人々の生き方、国土のありよう、などまさに「文化」そのものであったことが詳細に述べられています。信仰の対象としての富士山、富士講の成り立ちや定着など興味深いものがありました。

 富士山は自然の山であるだけはでなく、芸術の山、宗教の山である。不幸にも軍事の山、天皇制体制の山、公害の山でもある。富士山ほどひとの欲望、国家の欲望に応じてきた山はない。それによって富士山は豊かな文化遺産、宗教遺産をつくりあげ、かつ、マイナス遺産をも生んだ。私たちは時代ごとにありとあらあゆる要望を富士に託した。その反省もこめて、富士山と共働してつくりあげた多様な遺産を自然、文化、宗教、歴史、民俗資本として見直し、富士山の全遺産目録、全資源目録をつくる。・・・世界遺産登録への声援とカウンセリングである。」(P278)

 今、地元では「富士山学会」と名づけた有識者の会が積極的に活動している、と聞きます。「かぐや姫」伝説、「竹取」伝説など富士山にまつわる伝承なども採取しているとか。

 引用文にもあるように、これを機会にたんなる「観光資源」にとどまらない地道な研究成果を期待します。 
   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする