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軍属時代 8 ~大石主悦~

2010年05月31日 | 人生航海
そして、何日か過ぎた頃、私のほかに何人かが憲兵隊に呼び出された。

恐るおそると皆について行ったが、入り口で、憲兵が、私に「お前は日本人か?」と聞かれた。

「はい」と答えると、「名前は?」と言うので、「藤本です」と答える。

その憲兵は何か納得出来ない様子で、何も言わずに奥の上官室に私だけを連れて行ったのである。

そこは立派な部屋で、中には上官の憲兵曹長がいた。

私を見るなり「お前は、まだ子供のように見えるが、歳はいくつだ?何をしに此処に来たのか?」と聞いた。

さらに「お前も賭博をしたのか?」と聞かれた。

「はぁ?」と首を傾けると、賭博の意味が分からないと思ったのか・・「博打だよ!」と言った。

その後、「いくら勝ったのか?」と問われた。

「私は、勝ったり負けたりはしません」と言って、頭を下げて「すみません!」と礼をした。

あの時の憲兵曹長の説教が忘れられない。

「おまえは、15歳らしいが、忠臣蔵の大石主悦を知っているか? その主悦もおまえと同じ齢の15歳で、主君の恨みを晴らして本懐を遂げて切腹した事を・・。おまえも知っているだろう。おまえには、その勇気があるか? 賭博は罪になる事ぐらいは分かると思うが、今後は真面目に働いて、絶対にしないように」・・と諭された。

他にも色々と説教された。

「これを内地の親が知ったら、どう思うか?遠い異国で国の為に働いていると思っているのに、両親に申し訳けないと思わないか?・・それが分かったら帰ってよい。等々」と言われて憲兵伍長を呼んだのである。

そして、憲兵伍長に「なぜ、あんな子供まで連れてきたのか?心配せぬように、よく言い聞かせて、車で停泊船まで送って行くように」という大きな声が、部屋の外まで聞こえた。

憲兵伍長は、苦笑しながら、私を停泊場の船まで見送ってくれたのである。

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