先月末から今月頭にかけて、インターネット上にこのような書き込みが目立った。

これは宮城県多賀城市での出来事だ。市立図書館が駅前に新しくできたビルに移転して3月21日にリニューアルオープンした。それに際して、混雑緩和のため事前に開催された図書カード登録会に多くの市民が集まった。

その登録会は市主催であるにもかかわらず、公共図書館の図書貸出カードをつくると、もれなくスタバや蔦屋書店の無料券がもらえるという、前代未聞の出来事が起きたのだ。

多賀城市民に確認してみると、「Tカード機能付きの図書カードを作成した人に、スタバとツタヤの無料券をプレゼントしていました」と言う。

いったい、なぜそんなことが起きたのか。それは、新図書館の運営会社が、全国にツタヤを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)であり、図書館と同じビルに開業するCCC子会社経営のスタバや蔦屋書店のオープニングイベントも兼ねていたためだ。

同社が運営する公共図書館、いわゆる「ツタヤ図書館」は2013年に佐賀県武雄市、15年に神奈川県海老名市に誕生して、カフェ併設の新感覚図書館として話題を呼んだ。しかし、昨年夏に武雄市で、価値の低い中古本を蔵書に仕入れていたことや、貴重な郷土資料を大量に廃棄していたことが発覚。それをきっかけに、ずさんな契約手続き、図書購入費がほかに流用されているなど、さまざまな問題が浮かび上がった。今年度だけでも、武雄市で2件、海老名市1件、それぞれの自治体が住民訴訟を提起される事態に陥っている。

そんななか、「第3のツタヤ図書館」と称される多賀城市がオープンに至ったが、事前に大きな混乱は起きず、無事に開業を迎えられそうな気配が漂っていた。

ところが、前述の無料券を大量配布した図書カード事前登録会に対し、ネットを中心に批判の声が沸き上がったのだ。

●税金を使ってTカード会員勧誘キャンペーン

多賀城市立図書館の図書カードは、既存の図書カード(Tカード機能なし)の継続利用、Tカード機能付き新図書館カードを作成、すでに持っているTカードに図書カード機能を付加、以上3パータンの中から選択することができる。

実際には、約9割の人がTカード機能付き図書カードを作成する結果となった。3月22日付毎日新聞の報道によれば、2月23日からオープンまでの1カ月間で約6000人が登録したという。つまり、そのうち約5400人がTカード付き図書カードを選択したことになる。

事前登録会で、図書館のカードをつくるとカフェとレンタルの無料券をプレゼントするというのは、つまり税金を使って公然とTカード会員獲得キャンペーンを行っていたわけだ。登録者の9割がTカード機能付きを選択したという事実が、それを証明している。

そもそも「ポイントが付くTカード機能付きと、Tカード機能なしのカード、どちらを選びますか?」と聞かれ、さらにTカード機能付きにすれば無料券をもらえるとなれば、ほとんどの人がTカード機能付きを選ぶのは想像に難くない。

つまり、Tカードのデメリットが正しく告知されない以上、自由意思で選択したとは到底いえず、無料券をエサに誘導したと指摘されても仕方ないだろう。

筆者は3月上旬、多賀城市教育委員会にその点を指摘したが、市教委サイドは「公私混同しないよう常時監督している。ただ、基本的には、民間業者の取り組みなので、市は直接関与する立場にない」と木で鼻をくくったような回答だった。

海老名市中央図書館では昨年、ひとりの市民が「図書カードを作成したら、自宅に学習塾のダイレクトメールが届いた」との内容をツイートしたことから、「やっぱりCCCは図書館の個人情報を売り飛ばしている」とネット上では非難の嵐が巻き起こった。もっとも、実際にはCCCが個人情報を売っていたわけではなく、Tカード機能付き図書カードを作成した場合、CCCから直接「生活提案を目的とした郵便物」が送られてくることがあるということだ。

Tカードは、加盟店で買い物やサービス利用の際に提示すると、一定のポイントが付く代わりに、その人がいつ、どこで、どんなモノやサービスにお金を払ったかという行動履歴を漏らさず記録される。その情報をCCCは、個人を識別する部分を除いて、マーケティング戦略立案や会員への生活提案に活用するとしているが、蓄積された個人情報の扱いについての不安が常につきまとう。図書の貸出履歴は保存されず、CCCに送られることもないとされてはいるが、そんなTカード機能を公共図書館の公式カードに採用するのは不適切との批判が根強い。

このような批判は各所で行われているが、実はTカードにはあまり公に語られていない大きな秘密がある。Tカードを使うと、自動的に発生する手数料がCCCにとって大きな収益源となっているのだ。』