国民がギャンブル地獄だと感じていないのは5つの不作為が働いているからだと、帚木蓬生『ギャンブル依存国家・日本』は指摘しています。
①政府を含めた行政
DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版 2013年)が嗜癖をもたらす原因としてギャンブルと並置した物質は、アルコール、カフェイン、大麻、幻覚剤、鎮静剤・睡眠薬・抗不安薬、興奮剤、タバコなどがある。
これらの嗜癖物質は、カフェインを除いて、何らかの使用規制が加えられ、タバコやアルコールの販売には企業が危険性を警告する義務がある。
ところが、日本ではギャンブルだけが野放しにされ、国が主体となってギャンブルを展開し、嗜癖患者を生み出している。
2013年、兵庫県小野市で、生活保護費や児童扶養手当をパチンコ・競輪・競馬などに費消するのを禁じ、そうした例を発見した市民に通報を求める条例が成立した。
そんなやり方でギャンブル障害がやむと思ったら大間違いです。食事は切りつめても、万難を排してギャンブルをしたいというのが、ギャンブル症者の常です。罰するだけでは何の解決にもならず、治療と予防のために体制を整えることが、先決なのです。
しかし、国がギャンブルの胴元になっているから、積極的に予防しようとはしない。
それどころか、各省庁は公営ギャンブルの宣伝にうつつを抜かしている。
2013年、大阪市立体育館で開かれたフィギュアスケートの四大陸選手権大会では、リンクの壁には某大手のパチンコ店の名前が堂々と書かれていた。
この宣伝を許したのは大阪市当局で、市の言い分は、借主が日本スケート連盟(橋本聖子会長)であり、そこが仲立ちになって広告を受け入れたという。
最近まで大阪の市営地下鉄では、車両全体が大手パチンコ店のラッピング広告で覆いつくされていた。
2012年、市民オンブズマンの中止を求める訴えを大阪市が無視し続けたので、市民団体は裁判を起こしたが、大阪市は広告は継続すると主張、差し止め請求の棄却を求めた。
結局、パチンコ店と広告会社が撤去の意向を示したが、大阪市は非を認めていない。
2011年、厚労省の研究班がギャンブル障害の有病率が男性9.6%、女性1.6%だと結論づけたとき、この数字を公表しなかった。
厚労省がギャンブル障害の対策に乗り出せば、ギャンブルを仕切っている各省や警察庁、公安委員会にもの申さざるを得なくなるから、事無かれで黙認していると、帚木蓬生氏は推測しています。
②警察
パチンコにはまって借金まみれになった人が起こす犯罪(多くは横領、詐欺)が毎月のように起きているにもかかわらず、警察はギャンブルが原因だとは公表せず、ただ借金があったようだとしか言わない。
③メディア
犯罪の裏にギャンブルがひそむことを記事にしないし、タバコやアルコールのCMは規制しても、パチンコのCMは朝から晩まで垂れ流す。
メディアもギャンブル業界から流れる広告費にどっぷり浸かっているから、業界と行政や警察の癒着に批判を加えないのかもしれない。
④精神医学界
ギャンブル症者はアルコール症やネット依存、統合失調症や認知症の患者数よりも多いから、精神医学界はギャンブル障害の恐ろしさを訴え、治療よりも予防が大切だと訴え、対策に取り組んでもいいはずなのに、政府の施策に異議申し立てをいない。
薬のない病気は存在しないように扱うのが精神科医の癖になってしまっており、精神医学界は本腰を入れて研究や治療に取り組まない。
⑤法律家
ギャンブルによる借金は応々にして債務整理に結びつくから、ギャンブルによって多重債務者が生じていることを法律家は知っているのに、声をあげない。
債務整理に関与する弁護士や司法書士が、精神科に相談したほうがいいとか、GAに行くようにと、治療に対して助言することはまずない。