三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

滝田洋二郎『おくりびと』

2008年09月17日 | 映画

滝田洋二郎『おくりびと』を見るまでは納棺師という職業があると知らなかった。
『おくりびと』の舞台は山形県庄内地方。
主人公が面接に行くと、月給50万円とまず言われる。
そんなに高給なのか、庄内でこの仕事が成り立つのかと思った。
ネットで調べた。

「納棺師」で検索すると出てくるのが株式会社札幌納棺協会、そのグループがNKグループである。
『おくりびと』の主人公が勤める会社はNKエイジェンシー。
NKとは納棺のことだそうで、札幌納棺協会がモデルかもしれない。

山形県鶴岡市の葬儀社のHP。

最近では「納棺師」という、遺族、親族に代わってご遺体を清め、死化粧を施してお棺に収める納棺の専門職がおりますので、葬儀社にお尋ねください。


納棺師はどういう仕事をするのだろうか。

葬儀社から依頼されて納棺師を派遣している「ケアサービス」(本社・東京都大田区)の富澤政信取締役はこう説明する。
「納棺師になるための特別な資格はありません。当社の納棺師は社内研修を3カ月から6カ月受けた約120人で、すべて社員。20代の女性が多い。故人への主な仕事は(1)シリコーン注射などによるやすらかな死に顔づくり(2)消臭効果のある薬品を口の中に入れる防臭処置(3)口、鼻、お尻の穴に綿花を入れる詰め物(4)白装束などを着せる着衣(5)納棺(6)遺体の髪や体を洗う湯灌です。湯灌を行わない場合、納棺師1人で切り盛りします」
納棺前に行われる湯灌は、ペアの男女の納棺師が手がける。大型バンを改造した車に軽量プラスチック製浴槽(1畳サイズで深さ30センチ)を積んで葬儀会場や自宅に出向く。改造車に差し込んだ湯が出るホースと排水用ホース(車にタンクが内蔵)をつないだ浴槽にバスタオルで包んだ遺体を横たえる。納棺師と遺族が一緒に髪や体を“清める”のだ。
納棺師の仕事は、湯灌を含め1時間30分ほどで終了する。納棺師を兼ねる社員は多少手当が付く。
料金はどうなのか。
「葬儀社のセット料金に含まれているケースとオプションのケースがあります。いずれにしろ湯灌まで行えば8万円から10万円が首都圏の相場。湯灌を除くと、5万円くらいです」(前出の富澤取締役)


葬礼に関する業界で活躍し続けている人はこう説明している。

映画(『おくりびと』)では、葬儀社スタッフの役割と、納棺師の役割が区別されて描かれていますが、多くの葬儀社は納棺の儀式を自社スタッフで行っています。「葬儀社は病院のお迎えから通夜、葬儀・告別式、アフターフォローまで一連の流れをトータルで統括するのが仕事、ご遺体の扱いは納棺専門業者に委託したほうが良い。」という考え方もありますが、納棺は通夜、葬儀・告別式への流れにつながる儀式のひとつであると同時に、遺族が故人との別れを認識する大切な場面でもありますから、葬儀社の担当者が場の空気を感じながら行うべきという意見が多いからです。
それでも、湯灌やメイクが伴う場合は専門業者に依頼するケースが多いようです。納棺業者の中には湯灌やメイクだけでなくエンバーミングを付帯して行っているところもあります。


納棺師の収入はいくらなのか。
ある納棺師のブログ。
http://blog.livedoor.jp/agnj181/archives/24740540.html#more

アルバイト情報誌を開くと載ってたので記載します。
【ゆかん】・・・死後間もないご遺体を洗うこと
葬儀前(御通夜前)に働くとするとはたしてHOWマッチ???
男性が日給7500円
女性が日給6500円
歩合は一件3500円
つまり一体洗うと3500円貰えるわけです
この仕事は冬場が稼ぎ時
だいたい4月から9月ぐらいまでは暇なのです。
暇な時期に募集をするみたいですから興味のある人は調べてみて
で9月半ばから3月下旬ぐらいまでは月平均60件 出勤日数22日として
60×3500円=21万
22×7500円=16万5千円
合計・・・・・・・37万5千円

湯灌だけでこの収入なら、化粧や着替えを含めたら月収50万円になるだろう。

『おくりびと』では納棺のシーンが美しく描写されていたが、洗体レディーという人のブログによると実際はそうでもないらしい。
https://plaza.rakuten.co.jp/himitusentai/diary/200508150000/

お着せ替えをしようと故人の体を傾けたらカケられました。私の太ももから下半身にかけて“真っ黒い血”吐血というのか通称“腹水”とも言いますが・・・ものすごい臭いでした。大ショックでしたが自己のあさはかさを思い知りました。


『おくりびと』の感想は、納棺師の所作はあまりにも儀式張っていて、作り物めいてしっくりこなかった。
しかし、死から納棺、通夜、葬式、そして納骨までの一連の流れはすべて儀式、すなわち喪の仕事である(死亡届を出すことなども)。
儀式を行うことで、遺族は死別を受け入れていく。

その一方で葬儀屋に対する差別心が我々にはある。
『おくりびと』で、二人乗りバイクが転倒して娘が死に、ケガですんだ男に遺族が「この人みたいな仕事をして償うつもりか」と言う。
遺体を浄めるという穢れた仕事をすることで、死なせてしまったという罪を償う、そういうふうにこの遺族は思ったのかもしれない。

小此木啓吾『対象喪失』に、フロイトが父親を亡くした後に見た夢の話が出てくる。

いまだ大便がつまっていた父親の死体は、絶命の瞬間あるいは死後まもなく、脱糞するに違いない。(略)そこでフロイトは父親の死体を前にして、大便で汚された死体を浄めねばと思う

フロイトは自己分析をし、父親の遺体を浄めようとする意味をこう説明する。

息子は看病しているあいだ、幾度か父が死ねばいいのにと思った。(略)そして、息子は自責の念に苦しめられる。

遺体を浄めることは「自責の念に発する面をもっている」と解釈している。

人は身近な人に対して愛情と憎しみという相反する感情を持つが、その人が亡くなると恨み、憎しみの感情は消え、それが死者に対する罪の意識に変わる。
遺体をきれいにしなければと思うのは、遺体を清拭することで自分の罪を償う意味があるのかもしれない。

『おくりびと』が作られたのは、本木雅弘氏が青木新門『納棺夫日記』に感動したからだそうだ。
青木新門氏は妻から「穢らわしい、近づかないで!」と言われたという。

クリント・イーストウッド『父親たちの星条旗』の主人公は、葬儀屋になるのが夢だというので、仲間から変わり者と見られている。
アリス・マンロー「なぐさめ」(『イラクサ』)にはエドという葬儀屋が出てくる。

エドとキティーは見栄えのいい夫婦だった。あんな職業でさえなければエドはなかなか興味をかきたてられる男だ。

カナダでも「あんな職業」なのである。

コメント (4)
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