破壊する創造者 -ウイルスがヒトを進化させたー

2011-03-12 09:00:19 | 日記
フランク・ライアン著  早川書房刊
これはぜひ読んで欲しい本だ。いずれ、精緻な理論として確立されるだろうが、新しい知見の登場だと言っていい(事実、著者は「新しい進化論」だと言っている)。
「破壊する創造者」とは、ウイルスのことである。ちょっと分かりにくいので、ウイルスではないがミトコンドリアを例に挙げる。ミトコンドリアは、酸素呼吸をする地球上に生息する全ての生き物の細胞に存在する。ミトコンドリアは、「好気性細菌」が10億年以上前にプロチストという真核生物と融合して新たな生き物となり、原生生物の祖先となった。そして、余分な物を削ぎ落として、必ず母親から子供に受け継がれる遺伝子となってしまった。つまり、厳密に言えばミトコンドリアは人間の一部ではなく、人間と共生している「他者」なのである。
ウイルスが人間あるいは動植物に侵入すると、宿主である人間・動植物を生命の危機にまで追い詰める(これを攻撃的共生という。鳥インフルエンザ、エイズがこれにあたる)。しかし、絶滅させはしない。というのも宿主が絶滅すれば、ウイルスも絶滅してしまうからだ。それでは、侵入した意味がない。そこで、ウイルスは宿主と折り合いをつけて、穏やかな共生に進む。しかも、この共生段階にはいったウイルスは、その宿主の進化を援けるのである。ウイルスの遺伝子変化のスピードは人間の数百倍であり、増殖力も半端でないからだ。著者はたくさんの実例を挙げているので、読んで欲しい。
ここで、問題が生じる。従来のダーウィンの進化論では「進化は突然変異と自然選択によって」起きるとされていた。しかし、ウイルスが進化に関与していたとなると……。そう、「生命の系統樹」の根元はひとつではなくなってしまうのだ。そればかりではない。ウイルスが様々な生物に侵入し、共生し、進化を援けていたということは、これまで整然と枝分かれしていた系統樹は、いたるところで絡まりあい,縺れ合って藪か網目状になってしまう。
しかし、著者はダーウィニズムとは矛盾しないと言っている。新しい知見を加えて進化論を「現代化」すればよいといっている。
決して読みやすい本ではない。しかし、「わたしは、この理論に関する最初の一冊を読んだ」という自負と、知的興奮を味わうことができる本である。400ページ。かなりの時間がかかりますよ。
念のため、著者は進化生物学者であるが、医師でもある。難病(ハンチントン病、アルツハイマー病等々)についても、これまで解ったことを詳細に報告してくれている。

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