明治神宮  -「伝統」を創った大プロジェクト-

2013-02-26 14:41:39 | 日記

今泉宣子   新潮選書

無駄のない、スピード感ある筆致である。それは巻末に挙げられた膨大な資料目録を見ると分かる。これらの資料を全て読み込んで、これだけ簡潔に書かれたことに驚く。
本書は、東京という森林を造成するには最悪の条件の中で、あれだけの杜を創った人達の苦闘と努力のドキュメンタリーである。その人達の苦労たるや今の私達には想像できない。幕末や明治に生まれた人と、今の日本人は別人種ではないかと思ってしまう。
初詣くらいしか参拝に行かない人は、一度平日に訪れてじっくりとその森厳さを味わってみるべきではないか。あの杜は百年、千年後の杜の姿を考えて植樹されたものなのである。しかも、木々は全国からの有志による寄付、しかも根回りから輸送代まで自己負担だった。151頁の「林苑の変移の順序(予想図)」をみてほしい。その予想は充分達成されている(明治神宮はまもなく創苑百年を迎える。)今の国有林・杉林の荒れ模様を考えてほしい。人手が足りないと言う話もあるそうだが、明治神宮は「なるべく人為による植伐をなくし……天然更新をなし得る」森林というコンセプトで始まったのである(もっとも敗戦後という事情も考慮しなければならないだろうが)。
翻って、2020年のオリンピック招致、これほどの国民的情熱に支えられているだろうか? 前回とは大違いである。どう考えても東京都庁と一部の企業の私利私欲で動いているとしか思えない。
幕末・明治生まれの人達のダイナミズムが直かに伝わってくる。ここまで書き挙げた著者に拍手を送りたいと思う。


コメントを投稿