金星を追いかけて

2012-07-23 08:12:03 | 日記

アンドレ・ウルフ著  角川書店刊

1716年、エドモンド・ハレーは1761年6月6日、金星が太陽面を横切ることを予言した。そして、世界中の科学者にこれを正確に観測するよう呼びかけた。というのも、この時の正確なタイミングと所要時間を計測できれば、地球と太陽の距離が計算できるばかりか太陽系の大きさも解るからだった。しかし、ハレー自身が観測できることはできなかった。なにしろ105歳まで生きていなければならなかったからだ。
その衣鉢を継いだのが、フランスの天文学者ジョセフ=ニコラ・ドリルだった。彼は金星の日面経過を観測できる地域を色分けした世界地図を世界中の科学者に配り、観測チームを組織した。しかし、時代が悪かった。18世紀はヨーロッパの国々が植民地獲得に血眼になっていた時代だったからだ。各国の協力を得ること自体が至難の業だった。観察に適した地域は、そのまま覇権争いの地でもあった(実は、この観測には隠れた副産物というより、実利があった。というのも、観測には正確な地図が必要だったからだ)。それでも、なんとか結束し、観察は実行された。しかし、残念。結果は失敗だった。
それでも、彼等は挫けなかった。というのも、8年後の1769年6月3日にもう一度日面経過のチャンスがあったからだ。しかし、その時失敗したら次は105年後の1874年と1882年、彼等が生きて観測することはできない。
本書はその二回のチャンスにチャレンジした科学者の冒険と観察の物語である。天文学者は同時に国威を賭けた冒険家でもあったのだ。
ここまでにする。久しぶりに読んだ冒険小説だった。

 


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