行為と妄想 -わたしの履歴書ー

2012-01-25 08:28:29 | 日記

梅棹忠夫著  中公文庫

これまで「梅棹忠夫」という人の、全体像を掴みきれない欲求不満があった。時に昆虫学者だったり、登山家、民俗学と比較文明論の泰斗であり、情報理論の先駆者であり、京都大学の名誉教授、国立民俗学博物館の創設者・館長であったりする。
本書を読んでやっと全体像を掴めたような気がする。
かくも多岐に亘って学問上の成果を収められたのは、学問上の枝分かれを無視しなかった、というか興味の趣くままに研究した。海外の高山に登った時に、同時に視線は麓に住む人々の生活、風習、宗教に及ぶ。そして、更に他の国々にも同様な疑問を持つ。一事が万事そうである。
フィールドワークで集めた膨大な資料の整理から、情報整理学に辿りつく。そんなジャンルの学問がなければ、自分で創設してしまう。彼にとってはそれは矛盾ではないし、自分の専攻に固執することでもなく、自然な道程であったのだろう。
もうひとつは、人との繋がり・縁を大切にしたことだ。その結果、たくさんの協力者を得ることが出来たのだし、また本人も積極的に協力・参加している。つまり、私が彼の全体像を掴み切れなかった背景は、こんな所にあったのではないか。
この点で、気がついたことがある。かれに協力賛同し、援助した人々(その逆の場合も)は、学者仲間はもとより、政治家・官僚・企業経営者・外国人と多才なのだ。時には、本業とはかけ離れたジャンルであるにも拘らず、私財を投げ打って賛助していたりする。これは、ほんの十数年前まで、彼等が教養豊かだったということである。それに比べて、最近の人間のスケールは小さくなった……。
最後にタイトル。「行為と妄想」。いかにも、この人らしい。しかし、妄想(下品な意味ではなく、自由な発想)を実現するには、とてつもない根性と意思、そして努力が絶対条件だということ。誰もが出来ることではない。

 


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