さむらい劇場   読み返した本 12

2011-06-18 16:00:52 | 日記
池波正太郎著  新潮社版

この作品は昭和42年に発表されたもの。池波ファンならばよく知っていることなのだが、この小説の主人公は榎平八郎だが、重要な脇役として平八郎の叔父・徳山五兵衛が登場する。彼は、鬼平犯科帳の長谷川平蔵の数代前の、火附盗賊改方長官である。ということは、『おとこの秘図』の主人公と同じ人物と言うことになる(こちらは昭和53年発表)。
両方を読み比べてみると微妙な違いがあるが、ストーリーの展開が実によく似ていることに気がつくはずである。というか、ほとんど同じなのである。どこが違うのかというと、前書が徳山五平衛の表の顔ならば、後書は五平衛の内面がテーマになっていることだ。
両書の間には11年の開きがある。ここに、池波正太郎の年輪が見えてくる。つまり、前書が男の生き方を書いたものだったのに対し、後書は男の内面、心情、生理を書いていると言える。ということは、年を経るに従って作者の関心が、人間とはどういう生き物なのかという点に遷っていったということになる。
ここが、ファンには堪らない魅力なのだ。なんど読み返しても、必ず新しい発見がある。すでに読んだという人も、試みにこのニ書を読み返してみて欲しい。こんな読み方もあるんだと納得できる筈である。

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