マラケシュの贋化石  上・下

2011-09-20 14:59:50 | 日記
スティブン・ジェイ・グールド著  早川書房刊

もし、あなたが17世紀のヨーロッパに居て、化石を発見した時、これが生物の遺骸が石化したものだと主張できただろうか(但し、その頃は人間と動物、植物、鉱物という分類しかなかった。勿論、化石と言う概念も用語もなかった)。
グールドが一貫して主張しているのがここである。現代の知見から判断すると、先人の偉業は理解できないのだ。むしろ、バカバカしい説を唱えた愚か者、見れば分かるじゃないかと思うのが普通ではないだろうか。だから当時の人は、これは鉱物だと主張したのだ。キリスト教では地球もそこに存在する全ての物は神が六日の間に創った物なのだから、それよりも古い生き物の化石などある訳がない(当時、地球の年齢は6000年というのが常識だつた)というのがこの主張の根拠だった。
それが生物の遺骸の石化したものだと認知されるのに、それらしき物が発見されてから200年の歳月が必要だった。グールドは、当時の様々な制約(宗教、政治、学界の権威など)に抵抗して自分の考えを曲げなかった彼等を賞賛して止まない。
グールドの主要な著作で読み残した一冊。彼が死去したと知ってあわてて買った。改めて、彼の学問、研究に対する姿勢に対して感心した次第。このような科学史を書く科学者はまずいない。それが可能だったのは、彼が原典に当たるという姿勢を貫いたからだ。原典を隅々まで読み、さらに行間に隠れている背景を読み取ったからに他ならない(当然ながら、彼はラテン語を初め、独、伊、仏、イディシュ語、他にも何ヶ国語に堪能だったという素養がモノをいったのだが…。というわけで、まず日本にはこういう科学者はいない)。
しかも、こうした努力は裏に隠し、軽妙なエッセイに仕立て上げたところが素晴らしいではないか。

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