澁澤龍彦との旅

2012-05-28 15:24:26 | 日記

澁澤龍子著  白水社刊

澁澤龍彦が彼岸に旅立ってから早くも4分の1世紀が過ぎたそうだ。一時、夢中になって読んだ作家だけに、それほどの時が流れたとは思ってもいなかつた。もっとも、私にはサドの研究者としての印象が強いのだが……。本書を読むまで、彼がこんなによく旅に出掛けていたとは夢にも思わなかった。多くの読者と同じように「書斎派」の人だと思っていた。だから、切符の買い方も知らない、ホテルや旅館で迷子になるというエピソードは、さも有りなんと笑って読める。
それにしても、そうした旅からあの文章を紡ぎだすのだからね流石だと感心してしまう。
龍彦と龍子、随分と仲の良かった夫婦だったらしい。共に暮らしたのは僅か18年だたそうだが、著者の文章の隅々まで幸せだったことが窺える。しかし、あの澁澤龍彦が笑い上戸だつたなんて意表を突かれた。
ところで、昭和45年8月に夫妻はヨーロッパに旅立つのだが、そのとき羽田空港に見送りに来た人達の中に盾の会の制服を着た三島由紀夫がいたそうだ。旅音痴の龍彦を心配して、龍子さんに細々と旅の注意をしてくれたそうだ。そして、この年の11月に彼は自決している。三島由紀夫の複雑な性格を髣髴とされるエピソードだ。

 

 

 


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