孤 愁  ーサウターデー

2013-01-19 15:22:49 | 日記

新田次郎・藤原正彦著   文藝春秋刊

本書は父・新田次郎の絶筆の小説・伝記を、息子の藤原正彦書き継いで完結させたものである。こういう例は稀有ではないだろうか? 少なくても私は初めてであった。
それはさて置き、タイトルの「孤愁ーサウターデー(ポルトガル語)」について考えてみたい。新田次郎によれば「私は孤愁にかかったのだよモラエス君。そして、この孤愁に取り憑かれたポルトガル人は、誰でもそうだが、故国を恋い慕いながら帰ろうとしなくなるのだ。帰ろうと思えば帰れる、だが帰らない、帰るべきではないという気持になって行くのだ。孤愁はポルトガル人だけにしかない一種の病気だよ」(132頁)。あるいはこうも言っている。「(孤愁は)過去を思い出すだけでなく、そうすることによって甘く、悲しい、せつない感情に浸りこむことです」(243頁)。
一方、藤原正彦は「はかないという概念がサウターデ(過ぎ去った幸せへの追慕や郷愁)と重なり合っている」と言っている(些か固いというか説明的だが)。
それにしても、この感性がポルトガル人特有のものだと、何度も出てくるがそれがどんな背景(歴史、風土、宗教、民族的背景なのか)の元に育まれた感性なのかは、説明されていないように思われる・おそらく、「孤愁」という訳語は新田次郎の造語なのだと思うが、そのお蔭で漠然とそのニュアンスは察することが出来るのだが……。
それにしても、藤原正彦はとんでもないことにチャレンジしたものである。なんとなく、数学者らしいな、とも思うのだが。
追記 日本の慣用句に「故郷は遠くに在りて想うもの」というのがあるが、それに近いのだろうか?


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