ほんとうの診断学 ー「死因不明社会」を許さないー

2012-06-16 08:32:59 | 日記

海堂 尊著  新潮選書

難しい本だ。とても素人が読み通せる本ではない。それでも読み通したのは、問題提起があまりにも深刻な問題だったからだ。
医師は患者を「診断」し、「治療」する。結果は完治したか、完治しないまでも延命効果ある場合もあるだろうし、治療の努力むなしく患者を死に至らしめることもある。おそらく、これは「治療」の持つ永遠の課題だろう。
しかし、治療の成果を検証する手段がないわけではない。病理学的治療効果判定=死亡時医学検索。勿論、これは医療の範疇ではない。投薬が効いたか、放射線治療が効いたか、手術が成功したか、これらは医師の仕事ではない。ないが、それを検証し、その成果を医療の現場にフィードバックしなければ、医療の現場は進歩しない。
当然のことながら、これは「医療」ではなく「医学」の問題である。そして、著者が指摘するのは、正にこの連携の問題なのである。著者はそのための手段としてAi(死亡時画像診断)を提唱し、その普及に努めている(Ai診断センター、現在全国で13施設ある)。
問題は一部の医学者がこの問題を無視していることである。どんな学問分野にでもあることなのだが、無視しているのは往々にして権威者なのである。これが「ヒトの命」に拘るだけにその影響は深刻である。
読了してどんな感想を持つか分からないが、決して無視できる問題ではない。
最後に著者は「はじめに」の部分で「本書は私の医師、医学者としての活動の集大成にもなるだろう。私は本書を以って医学の世界を卒業し、新しい世界へ旅立とうと思っている」と書いているが、小説家になるのかな? ちょっと残念な氣もするのだが……。