おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

次郎長三国志 第一部 次郎長売出す

2023-11-28 07:19:42 | 映画
「次郎長三国志」シリーズを掲載します。

「次郎長三国志 第一部 次郎長売出す」 1952年 日本


監督 マキノ雅弘
出演 小堀明男 若山セツ子 田崎潤 森健二
   河津清三郎 田中春男 広沢虎造 豊島美智子
   広瀬嘉子 沢村国太郎 小川虎之助 阿部九州男

ストーリー
清水港きっての暴れん坊米屋の長五郎、通称次郎長(小堀明男)が、張子の虎三(広沢虎造)が巻き起こした居酒屋の喧嘩出入りで旅人の小富、武五郎を海へ叩き込んだ。
死なせてしまったと思い込んだ次郎長は長い草鞋を吐くことになり、幼なじみでもある江尻の大熊(澤村國太郎)の勧めもあり、次郎長に思いを寄せる大熊の妹お蝶(若山セツ子)に見送られ旅に出る。
二年ぶりに清水港へ帰る途中、秋葉の馬定一家の賭場で鬼吉(田崎潤)という若者に惚れられ子分を契った。
この鬼吉が一目惚れした寿々屋の娘お千ちゃん(豊島美智子)の事で馬定一家の乾分と喧嘩をし、馬定一家の関東綱五郎(森健二)が喧嘩口上の使者としてやって来た。
しかし五丁徳(阿部九洲男)などの卑怯なやり口を怒った彼は、喧嘩に加勢はおろか、やがて軌りまくられて逃げ出した五丁徳らを尻目に次郎長第二の子分となった。
お千に一目惚れした綱五郎は、飲み屋で鬼吉と取組み合いの大喧嘩を始め、浪人風の相客伊東政五郎(河津清三郎)に表へ放り出された。
政五郎は侍の世界に愛想をつかし藩を出奔してきた腕も学問もある人物で、武士階級を離れることを頑なに拒む妻ぬい(広瀬嘉子)への未練を断ち、名も大政と改めこれも次郎長から盃をもらって渡世人となった。
折から次郎長の叔父和田島の太左衛門(小川虎之助)が甲州津向の文吉(清川荘司)に喧嘩を売られた。
次郎長は喧嘩の原因が馬定の中傷だと知り、仲裁役を買って出て男を上げた。
この出入りでお経よりも喧嘩が好きという変な坊主法印大五郎(田中春男)が加わり、又一人乾分がふえた。


寸評
僕が子供の頃、いや今もってと言ってもいいかもしれないのだが、浪花節(浪曲師)と言えば広沢虎造であった。
森の石松を語ったものが耳に残っていて、「江戸っ子だってねえ」、「神田の生まれよ」、「そうだってねえ、酒のみねえ、スシ喰いねえ」というしわがれ声の名調子は忘れ難い。
その広沢虎造が喧嘩が全く弱いヤクザ者の張子の虎吉として登場していて、語り部としての役割も担っている。

侠客と言えば幡随院長兵衛、黒駒勝蔵、国定忠治、大前田英五郎、笹川繁蔵、飯岡助五郎、新門辰五郎、会津小鉄などが思い浮かぶが、中で最もポピュラーなのが清水次郎長だろう。
清水一家二十八人衆などと呼ばれる子分たちがいたようだが、ここでは初期段階で徐々に子分を増やしていく様子が描かれている。
子分の一番手となるのが桶屋の鬼吉で、このキャラクターを演じる田崎潤がやたらと目立っていて、誇張された名古屋弁を駆使してあばれまわり、その存在感は次郎長を追いやってしまっている。
田崎潤が桶屋の鬼吉を演じるために自ら東宝に企画を売り込んだということを知り、それならばさもありなんということが分かる桶屋の鬼吉の活躍である。

二番目の子分になるのが関東綱五郎なのだが、この二人がお千ちゃんを巡って恋のさや当てをする。
お千ちゃんが客に絡まれているのを救ったのが鬼吉なのだが、綱五郎がお千ちゃんに絡む態度は先のゴロツキと大して変わらないじゃないかと言うもので、とても正義のヒーロには見えなかった。

三番目の子分となるのが大政である。
武士の家に養子に入ったが、武士の暮らしが肌に合わず家を抜け出している。
政五郎を探しに来て、家に帰ってくれと請願する妻のぬいとの別れは涙を誘う場面なのだが、武士の暮らしを嫌う夫と、家名を守ろうとする妻の葛藤にもう少し深く入り込めていたならより感動するシーンとなっただろう。
ここで一緒に暮らそうと誘う夫に見切りをつけて実家に帰る妻の心情をもう少し描いて欲しかったところだが、それを描き込めばこの作品の持つ軽妙な雰囲気が壊れてしまうのかもしれない。

目に付くのは次郎長一家が走る姿である。
桶屋の鬼吉が口上を伝える役に立ち、三保の松原での馬定一家との出入りに向かう場面ではクラブ活動のランニングよろしく掛け声に合わせて駆け出している。
和田島の太左衛門と甲州津向の文吉の出入りでも、喧嘩の原因を作った男を戸板に縛りつけ、文吉方に掛け声とともに駆け出している。
何かといえば駆け出す次郎長一家という感じだ。
この出入りで、河原に寝転がっていた法印大五郎が飛び入り参加し次郎長一家に加勢している。
次郎長一家4番目の子分である。
一家には森の石松、増川仙右エ門、大瀬の半五郎、追分三五郎など馴染みのある子分がいるが、彼等はまだ登場せず次回作への期待を持たせて終わるのはシリーズの第一作らしい。