「次郎長三国志 第三部 次郎長と石松」 1953年 日本
監督 マキノ雅弘
出演 小堀明男 森繁久弥 久慈あさみ 若山セツ子
小泉博 広沢虎造 河津清三郎 森健二
田中春男 田崎潤 石井一雄 沢村国太郎
小杉義男 花房一美 清水元 鴨田清
渋谷英男 峰三平 天見龍太郎 岩本弘司
ストーリー
森の石松(森繁久彌)は旅の途中で次郎長一家と一緒になり、子分になれと誘いをうけたが断って皆と別れ、一人旅をつづけていたが、黒駒勝蔵の代貸大岩(鴨田清)の妹おもと(花房一美)とねんごろになって大岩に追われる追分三五郎(小泉博)をひょんなことから救った。
三五郎はちゃっかりした男だが宿場の賭場で投節お仲(久慈あさみ)の艷な打ちぶりに幻惑されてスッテンテンになり、応援に出た石松もお仲のいかさまにかかって文無しになった。
翌日二人の部屋を訪れたお仲は歯切れのいい仁義を切ったあと、昨夜はいかさまをしたといって石松に金をもどし、石松はお仲にゾッコンとなってしまった。
料理屋で一緒になった石松とお仲は酒を酌み交わし、お仲は酔いつぶれて「明日の朝、橋のたもとで待っているから二人で旅をしよう」と思ってもないことを言ってしまう。
女好きの三五郎もお仲にすっかり参ってしまっていて、お仲から昨夜の出まかせの後始末を頼まれると仮病を使って石松を引き止める。
人の好い石松は三五郎を置去りにすることができず、お仲は一人宿を立っていった。
一方次郎長一家は旅の途中のある賭場でお仲を見かけ、次郎長(小堀明男)は彼女のいかさまを見破る。
しかし開帳中に役人が押し寄せ、次郎長一家は罪をかぶり捕えられた。
牢に入れられた彼らは横柄な牢名主(小杉義男)をとっちめたりしていたが、清水港から彼らを探してきた張子の虎三(広沢虎造)の知らせで、次郎長の兄弟分江尻の大熊(澤村國太郎)の繩張りが黒駒の勝蔵に荒らされそうになっているのを知った。
三五郎と石松はまたしても大岩の追手に遭ったが、三五郎を追ってきた大岩の妹が三五郎の薄情を悲しんで滝に身投げすると騒ぎ出し、さすがの女蕩し三五郎も一寸閉口垂れた。
百叩きの刑をうけて放免された次郎長一行は早速清水港へ急ぎの旅をつづけていた。
寸評
前作でほんの少し登場した森の石松を中心に描いているが、やがて石松と共に次郎長一家に入ることになる追分の三五郎が登場している。
次郎長一家とは関係なく、森繁久彌の石松と小泉博の三五郎による掛け合いが続き、これに久慈あさみの投げ節お仲が絡むという展開がずっと続く。
女にモテモテで調子のよい三五郎と、吃音のハンデを持ちながらも人のいい石松の掛け合いは面白いが、何といっても森の石松を演じている森繁久彌の軽妙な演技が際立っている。
この頃の森繁久彌はまだまだ駆け出しと言ってもいいような時期だったと思うが、彼の原点はこの作品にあるのかもしれない。
おもとを巡って追手の大岩と争いを起こし足を怪我した三五郎を石松が助太刀する。
意気投合した二人は宿屋で酒を酌み交わすが、調子のいい三五郎は女中へのチップを石松からせしめ賭場へ行き投げ節お仲と出会う。
追いかけてきた石松もバクチにはまりスッカラカンにされる。
お仲を好いた二人だが、要領のいい三五郎に馬鹿正直な石松が振り回されるという顛末がそれらの経緯の中で描かれていく。
二人のキャラクターを決定づけるように、少々くどいと思われるくらい同類のエピソードが手を変え品を変えで描かれているので、僕はこの間の描き方に間延び感を感じた。
よくわからないのは投げ節お仲の性格だ。
三味線流しをしながら、その土地の親分の元でイカサマ博打をするしたたか女だが、この作品におけるヒロイン的な存在でもある。
心にもなく石松に「好きよ」と言って二人一緒の旅立ちを約束しておきながら「あんな男は大嫌い」と言わせてはヒロインとしていかがなものか。
ヒロインなら一見悪そうだが、本当はいい女なのだという一面をもっと見せても良さそうなのにと思う。
うぶな素人娘ではなく、世間にもまれた玄人筋の女を意識させるためだろうか。
その為に吹き替えながらお仲のヌードシーンを挟んでいる。
このお仲を接着剤にして前半と何の関係もない次郎長一家を後半で描いているが、やはり別々の話が一つの作品の中にあるという違和感はぬぐえない。
これでシリーズは3作目となるが、主人公の次郎長に特別な魅力はなく影が薄い。
むしろ脇役たちに魅力的なキャラクターと役者が並んでいるように思える。
法印大五郎の田中春男などが存在感を見せ始めている。
極めつけは前述のとおり森の石松の森繁久彌である。
張子の虎三がやってきて、次郎長に清水港で江尻の大熊と黒駒勝蔵の出入りが迫っていることを告げる。
三五郎を慕うおもとの兄が黒駒勝蔵の代貸である大岩だということで次回作へのつなぎを感じさせる。