おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

失楽園

2023-11-16 07:30:47 | 映画
「失楽園」 1997年 日本


監督 森田芳光
出演 役所広司 黒木瞳 星野知子 柴俊夫 寺尾聰
   平泉成 木村佳乃 岩崎加根子 中村敦夫
   小坂一也 あがた森魚 石丸謙二郎 原千晶
   金久美子 速水典子 村上淳 井上肇

ストーリー
出版社の敏腕編集者だった久木祥一郎(役所広司)は、ある日突然、閑職の調査室配属を命じられた。
そんな久木の前に、彼の友人・衣川(寺尾聰)が勤めるカルチャーセンターで書道の講師をしている松原凛子(黒木瞳)という美しい人妻が現れる。
彼女は“楷書の君”と呼ばれているほど折り目正しく淑やかな女性だったが、久木の強引でひたむきな恋の訴えに、やがて彼を受け入れた。
そして、週末毎に逢瀬を重ねていくうちに、凛子はいつの間にか性の歓びの底知れない深みに捕われていく。
ふたりの関係は次第にエスカレートしていき、凛子の養父が死んだ通夜の晩、久木にせがまれた凛子は、夫や母親の眼を逃れて喪服姿のままホテルで密会した。
凛子は罪悪感にさいなまれるが、それはかえってふたりの気持ちを燃え上がらせる。
やがて、久木は密かに都内にマンションを借り、凛子との愛の巣を作り上げた。
凛子の夫・晴彦(柴俊夫)は興信所の調査で妻の不貞を知る。
晴彦はあえて離婚しないことで凛子を苦しめようとし、一方、久木の妻・文枝(星野知子)は静かに、しかしキッパリと離婚してほしいと要求した。
家庭や社会からの孤立が深まっていくなか、それでもふたりは逢うことを止めようとはせず、世間並みの日常が失われていく分だけ、ふたりだけの性と愛の充足は純度を増していく。
そんな折、久木は会社に告発文が送られてきたのをきっかけに辞職を決意し、文枝との離婚も承諾する。
凛子もまた晴彦や実母との縁を切って、久木のもとに走った。
「至高の愛の瞬間のまま死ねたら」という凛子の願いに久木は共感し、ふたりでこの世を去ろうと決意する。


寸評
原作の小説は1995年9月から翌年10月にかけて日本経済新聞に掲載されていたのだが、当時会社勤めをしていた僕もこの連載小説を興味をもって読んでいた。
その興味は一般紙の新聞小説にしては濃密な性描写がふんだんに出てくるところにあり、日経新聞がこのような小説を連載してもいいのかと言う批判もあったぐらいである。
しかしそれゆえに話題になったのか「失楽園」は流行語にもなった。
この映画においては松原凛子を元宝塚歌劇の娘役のトップスターだった黒木瞳が演じること、またその黒木瞳がセックスシーンをどこまでやるのかが話題となっていた。

他の宝塚出身の女優と違って黒木瞳は銀幕デビュー時から結構脱いでいたし、この作品でも頑張っていて役目は十分に果たしていたと思う。
原作自体もそうなのだが、この映画も二人の逢瀬を濃密に描いているだけで、僕はそこに至ってしまう背景の様なものを感じ取ることが出来なかった。
出版社に勤める久木は突然編集の第一線から外され、閑職というべき調査室への配属を命じられる。
すっかり仕事への情熱を失ってしまう久木だが、そのことが妻や娘に囲まれた幸せな生活を捨てることにどうつながるのか、別の女性に走ってしまう気持ちになぜなってしまうのかが分からなかった。
仕事は久木の人格形成にとってどのようなウェイトだったのか、家族とは久木にとってどのような存在だったのか。
普通の浮気男がするのと同様に、久木は普段通りを装って妻や娘と接している。
一方で、久木は家族に内緒で都内にマンションを借り、凛子と半同棲生活を始めている。
久木にはそれだけ経済力があったのだろう。
同じサラリーマンであった僕には到底できない行動である。

一方の凛子は医師の夫との暮らしは金銭面では不自由なくとも、夫婦関係はどこか息苦しいものとなっている。
凛子は夫の晴彦とどのようにして結婚したのだろう。
打算的な結婚だったのだろうか。
凛子はいつの間にか夫婦生活では得られなかった体の悦びに目覚めていくのだが、性の目覚めを描くならかつての日活ロマンポルノの秀作の方が上手く描けていたように思う。
当初、妻から離婚を切り出された久木はそれを受け入れていない。
結婚生活を維持しようとした久木は何を思っていたのだろう。
結婚生活を続けて、凛子とも今まで通りのセックスライフを送りたいと言う思いだったのだろうか。
二人はいつしか「最高の愛の瞬間のまま死ねたら」という願望を抱くようになり心中を決意する。
不倫の結末として心中を描くなら、最後はもっと人間臭い姿があっても良かったと思う。
この世の名残りとして、何度も何度も交わるような姿だ。
僕はどこかの記事で、心中したカップルがいた部屋は精液の匂いが充満しているというのを目にした記憶がある。
久木と凛子の最後の姿はそれらしいものだが、美しく描きすぎて人間らしさを感じなかった。
それは僕がゲスな人間だからだろうか。
どうも人間の本性の様なものを感じ取れなかったなあ・・・。