おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

次郎長三国志 第二部 次郎長初旅

2023-11-29 06:58:39 | 映画
「次郎長三国志 第二部 次郎長初旅」 1952年 日本


監督 マキノ雅弘
出演 小堀明男 若山セツ子 河津清三郎 田崎潤 森健二
   田中春男 石井一雄 森繁久弥 広沢虎造 豊島美智子
   隅田恵子 和田道子 三好栄子 沢村国太郎

ストーリー
御用提灯の群れが喧嘩の罪で次郎長(小堀明男)や大熊(沢村國太郎)たち親分の行方を追っている。
次郎長はお蝶(若山セツ子)と二世のちぎりの盃をし、次郎長一家が役人をひきつけ客人の親分衆を裏口から逃がし、次郎長はお蝶を残し大政(河津清三郎)、桶屋の鬼吉(田崎潤)、関東の綱五郎(森健二)、法印大五郎(田中春男)をつれて旅へ出た。
途中、赤鬼の金平の仔分相手に果し合いとなった増川の仙右衛門(石井一雄)のため口を利いてやった。
そして次郎長一行は、昔馴染みの沼津の佐太郎(堺左千夫)宅に立ち寄る。
佐太郎は女房お徳(隅田恵子)の着物を質に入れ、久しぶりの次郎長を歓待する。
佐太郎に同情した仙右衛門は、佐太郎をそそのかして次郎長たちの着物を質に入れ、賭場へ草鞋銭を稼ぎに出かけるが、かえって自分たちまで裸になってかえって来た。
次郎長は、仙右衛門の恋人おきね(和田道子)の父を訪ねて二人の仲をまとめてやり、ここでやっと古着を都合して金平の許へ乗込んだ。
金平は次郎長の言葉をきかず新川の川原での果し合いになり、次郎長たちは金平一家を押しまくった。
一行は街道の茶店へはいり、そこで独り酒を呑んでいる吃音の男を鬼吉と法印が笑ったことからこの男と喧嘩になった。
吃音のくせにこの男、喧嘩となると滅法歯切れのよいタンカを切るのに次郎長は惚れ込む。
吃音の男は森の石松(森繁久弥)と名乗った。
石松に別れた一行は更に気の向く旅を続けるのだった。


寸評
人情編ともいえる一遍だ。
ほだされるのが佐太郎の女房お徳の亭主のメンツを想いけなげに尽くす姿である。
一見冷たそうで勝ちそうに見える隅田恵子扮する女房・お徳の姿がいじらしく思える。
兄弟分が訪ねてきたことを悟ったお徳はあばら家を掃除する。
ありたけの酒を出し、足りない分は自分の着物を質屋に入れて都合をつける。
料理屋が魚屋に注文するのかとからかわれながらも酒の肴も都合をつける。
次郎長たちもその事を悟り、少ない酒で酔ったふりをしたり、感謝しながら酒と肴をもらっている。
お徳は着物を売ってしまったので寒さに震えながら眠る事になるが、それもいとわない気丈ながらも気のいい女で、男性の観客はこの女房に相当肩入れしてしまいそうな描き方である。
それに比べると亭主の佐太郎は頼りない。
女房に頭が上がらないようであるが、女房のことを心底いたわる優しい一面を持っていて、この夫婦はいい夫婦関係なのだと感じさせる。
荒れ放題になっている佐太郎の料理屋で繰り広げられる様子は、これだけで一つの作品になりそうな人情噺だ。

この夫婦に対比するような形で登場するのが増川の仙右衛門とその恋人おきねである。
仙右衛門は若いし世間知らずでもある。
おきねもお蝶ほどのヤクザ世界の男である仙右衛門の立場にたいする理解力がない。
おきねはお徳やお蝶のような大人になり切れていない娘として描かれている。
おきねは家を飛び出していて、頑固な父親はおきねも仙右衛門も許していないが、母親はおきねのことが気になってしようがない。
また二人の間を許すようになった父親が着物をなくしている次郎長一家のために必死で都合をつけてやる姿は、娘を想う父親の真の姿でもあり、父と娘の親子関係をうまく描いている。
佐太郎の件と言い、おきね親子の件と言い、今回は人情に訴える要素が非常に多い。

それに比べると金平一家との果し合い場面はあっけない。
おおよそヤクザの喧嘩はこのようなものだろうというものだが、乱闘をカメラワークを駆使して描くと言うものではなく、次郎長一家の無事を描くことで勝利を示していて、肩透かしを食ったような描き方だ。
それを補うのが森の石松の登場である。
おそらく現在ではほとんどカットされてしまいそうな森繁の吃音演技は見事というほかない。
わずかの登場であるが非常に印象深い。
極度の吃音なのだが仁義を切るときだけ「立て板に水」になるのが面白い。
手前生国と発しまするは三河にござんすから始まり、てまえ元は堅気、気立てはいいが女にほれるが悪い癖、
金波銀波の遠州灘、男伊達なら度胸なら俺の右に出るものはねえと続き、ピリッと利いたワサビの気風、惚れた女は星の数、情に脆いが玉にキズ、娘十八のアダさす森の茂みはオイラのしけば、胸のほてりを醒まそうと、石を抱いて松の根枕、人呼んで遠州森の石松と申す 粋な・・・ええいぃ 粋なヤクザでござんす。
惚れ惚れするタンカだった。