おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

わが青春のフロレンス

2023-06-17 09:28:07 | 映画
「わが青春のフロレンス」 1970年 イタリア


監督 マウロ・ボロニーニ
出演 マッシモ・ラニエリ オッタヴィア・ピッコロ ティナ・オーモン
   フランク・ウォルフ ルチア・ボゼー アドルフォ・チェリ

ストーリー
1880年、監獄から一人の男が出て来た。
灰色の壁に寄り添って一人待っていた女が近づいて来る。
女は赤ん坊を抱えていた。
「生まれたか……名前は?」「メテロ……」。
そしてその夜、生活の疲れと出産の疲れが重なったメテロの母は死んだ。
数日後、砂取り作業員で革命家だった父もアルノ河の氾濫で濁流に呑まれて死んでしまう。
メテロは田舎に預けられて育ったが、17歳の時、世の不景気のため移往する一家を離れて両親が住んでいたフロレンスに戻る決心をした。
父の古い友人でアナキストのベットは煉瓦工の仕事を捜してくれた。
彼の下宿で世話をうけながら、メテロは熱烈な社会の完全変革をめざす思想を彼から教えられる。
しかし、或る日、彼は酔って姿を消した。
捜しに出たメテロは監獄に行ってみるが、“ベット”という名を喋っただけでブチ込まれる。
牢獄には政治犯もいて初めて階級を意識した。
未成年で無実だったからすぐに釈放され煉瓦職人に戻った彼は、或る日、仕事場の隣にある家の庭仕事を頼まれ、未亡人ビオラに誘惑される。
彼の恋は真剣だったが、しかし彼には3年の兵役が待っていた。
フロレンスに帰ったメテロは以前の会社に戻り社会主義労働者グループに入った。
久し振りに会ったビオラはちっとも変わっていなかったが、もうビオラは自由の身ではなかった。
メテロ達の働く現場で人員整理のゴタゴタが起き、その騒ぎの最中、一人の男が誤って腐った梯子から落ちて死んだ。
その男の葬式の日メテロはエルシリアと会い、彼女の清楚な姿はメテロの心に刻まれた。
組合の赤旗で護られた葬列は官憲の不当弾圧で蹴散らされ、抵抗したメテロと同志達は投獄された。
まだ愛した経験がないから、同情なのか愛情なのか分らないというエルシリアだったが、メテロが出獄すると二人は結婚し、子供も出来た。
組合運動が活発化し、メテロは集会のリーダー格となり、遂にストライキが宣言され20世紀初頭の伝説的争議となった。
メテロの隣に住む人妻イディナは典型的な有閑夫人で日頃からメテロに気のあるそぶりを示し、労働者の妻のエルシリアにはない魅惑的な眼差しを持っていた。
そして、妻の留守中二人は過ちを犯してしまう。
帰宅したエルシリアがその逢瀬を目撃したのには気付かない。
煉瓦工のストは40日以上に渡って続けられ、スト基金は底をつき、職場復帰する者は厚遇するという資本家側に寝返る者が出て来るが、メテロは屈伏しないと頑張った。
一方エルシリアは外で夫と密会を続けるイディナを待伏せ、部屋に連れ込んでいきなり力いっぱい平手打ちを喰わせた。
資本家側に寝返った連中がストを破って仕事にかかるというので、仕事場に駆けつけたメテロ達の前には軍隊の銃口が待ちうけていた。
乱闘になり、軍隊が発砲した。
その時資本家側が労働者の要求に折れスト中止の指令が入った。
騒乱罪でやがて逮捕の手がのびる事を知ったメテロは妻の許へ別れを告げにいく。
メテロはエルシリアの豊かな女らしさに烈しい愛を確認する。
6ヵ月の拘留後、外には息子の手を引き、身重の姿の妻が待っていた。
彼が捕っている間、誰かが金を届けてくれたと妻がいった。
「もうこの中へは絶対入らない、誓うよ」とメテロは言ったが、とエルシリアはメテロを見つめ、息子の肩を抱きしめながら「父の誓いと同じだわ」と呟いた。


寸評
労働組合運動が盛んだったころの作品で、組合運動と若者の恋愛遍歴が並行する形で描かれていく。
成人したメテロは生まれ故郷のフィレンチェで煉瓦工として働くようになり、亡くなった父親と同様の賃金闘争にのめり込んでいく。
メテロは闘争を通じて何度も逮捕され、服役と介抱を繰り返す姿が闘争部分として描かれ続ける。
そんな中でメテロは農業経験者として仕事場の近くの家から庭仕事を依頼され、その家の未亡人ビオラから誘惑されて関係を持つ。
二人の間には愛情めいたものがあったのかもしれない。
ビオラは子供が出来ていたらどうするかと聞くと、メテロは結婚すると返答している。
冗談のようなやりとりだが、この会話はラストへの大きな伏線となっている。
メテロは人員整理のゴタゴタ騒動で自分をかばってくれた男の死に直面し、娘のエルシリアに心を奪われる。
エルシアのオッタヴィア・ピッコロがなかなか良くて、「わが青春のフロレンス」と言えばオッタヴィア・ピッコロだったような気がする。
メテロは隣に住む人妻イディナとも関係を持つのだが、このイディアナから送られるあからさまな誘惑視線の結果である。
イディアナの態度は見ているこちらとしては嫌悪感が生じるもので、それはエルシアとの対比を求めた演技要求だったのだろう。
エルシアとイディアナの対決シーンには胸のすく思いがする。
ストライキが終了してもメテロは再び逮捕されてしまいエルシアは生活に困窮するが、男の子がお金を届けてくれて急場をしのぐことが出来るようになる。
僕は手紙かなと思って見ていたのだが、それは十分すぎるお金だった。
伏線が効いてきて、走り去った子供はメテオの子供だったのではないかと思わせるのだ。
そしてメテロの父親が刑務所から出てくる冒頭のシーンにつながるラストとなる。
賃金闘争のシーンも多くを占めていたが、メテロの女性遍歴が深く印象に残る。