おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ロケーション

2023-06-08 08:07:12 | 映画
「ロケーション」 1984年 日本


監督 森崎東
出演 西田敏行 大楠道代 美保純 柄本明 加藤武
   竹中直人 アパッチけん

ストーリー
べーやんこと小田部子之助(西田敏行)は、ピンク映画のカメラマンで、妻・奈津子(大楠道代)もピンク映画の女優なのだが、奈津子の主演映画が始まるという晩、彼女は常習の睡眠薬自殺未遂を起こした。
夫婦の二十年来の友人でシナリオライターの紺野(柄本明)が馳けつけてきた。
紺野に奈津子を任せ、べーやんはロケーション出発地に向った。
映画の内容は、三人の男にレイプされた女の復讐劇で、奈津子の代役・笛子(麻生隆子)は裸がいやとごねる。
そこへ、紺野が奈津子を連れて来たが、撮影の途中「もうだめ」と下りてしまった。
都内の連れ込み宿のシーンに来たが台本訂正があり、両親を溺死させられた娘の復讐劇となる。
借りた宿の女中・笑子(美保純)が消防器具をひっくり返し、粉末をあびた代役ジーナ(イヴ)は逃げ出した。
笑子を代役に撮影続行したが、監督(加藤武)がぜん息で入院してしまう。
彼はあと3日でアップすること、笑子をヒロインにと言い渡す。
突然、笑子がお盆の墓参りに故郷の福島に帰ると言い出したので、仕方なしにロケ隊も福島に向う。
途中、笑子が小学校に立寄ったら、偶然にも体操教師の赤岩(佐藤B作)が、笑子の恩師だった。
学校のプールを借りて、笑子と両親を見殺しにした男との対決を撮るが、赤岩は必死に止めようとする。
笑子が本当に両親を殺したという噂があると言うのだ。
べーやんは駄菓子屋の老婆サタ(初井言栄)から、笑子の生い立ちを聞いた。
炭坑夫だった父は事故で体が不自由になり、ヤクザに引き込まれてバクチに手をだし、借金抱えて逃げ回った末、一家心中して笑子が一人残されたというのだ。


寸評
映画の撮影現場を映画に撮り込む作品は趣向を凝らして何度も試みられている。
この映画もその趣向にドンピシャの作品で、撮影隊が主人公となっている。
撮影現場のドタバタぶりが面白おかしく描かれているが、エピソードや描き方はどこかひ弱感がある。
撮影現場のトリビアがリアリティをもって描かれていないような気がする。
小道具の使い方とか撮影機材の役割とか、あるいは撮影現場で起きるトラブルだとか、撮影現場に居る者でしか分からないようなことを描くことで、映画作りの裏側を知らない我々は、「へえー、そうなのか」と知識を得る事での満足感が生じると思う。
作中でもそのようなことを描いてはいるのだが、どこかに嘘っぽいものを感じてしまう。
コメディタッチではあるが、そこに本物を感じさせるものがあるべきだと思う。
クレーンを使わない俯瞰撮影だとか、水中に垂れた電源ケーブルで感電するとかのシーンはもっとリアルであっても良かったと思う。
映画にかかわる人へのオマージュとして、助監督や現場スタッフのおそらくつまらない雑用であるだろうことに対する涙ぐましい働きぶりも描き込んで欲しかった。
森崎東ってそんなことを描くのが上手い監督だと思うのだがなあ・・・。

べーやん、奈津子、紺野の三角関係の描き方も中途半端なものだ。
三人は幼なじみで全共闘世代の生き残りなのだろう。
奈津子はどのような経緯でべーやんと結婚したのかはわからないが、奈津子はべーやんと紺野が仲良くしてくれていれば、自分の伴侶はどちらでも良いと思っているようなのだが、その関係が曖昧のままで終わっている。
ピンク映画とは言え彼らは映画作りに情熱を注いでいる者たちだ。
彼らの映画魂が後半に行くにしたがって輝き始める描き方は納得である。
映画のラストシーンになる場面の撮影シーンは、コメディにもかかわらず感激ものである。
もちろんその前に繰り広げられる美保純と大楠道代による、現実世界における確執のぶつかり合いがあってのことなのであるが、映画の世界と現実の世界のオーバーラップはもう少し上手い描き方が出来たように思う。
森崎東自身も加わっている脚本自体が悪いのかもしれない。

笑子の母親が登場し、これが奈津子とそっくりの女性で、監督が最後に「なっちゃんは良くなったねえ・・・最初と最後じゃ別人だ」と言うのは、二役をやった大楠道代の処理としては面白かった。
ピンク映画が真面目な映画になってしまって、映画配給会社の若手社員である矢崎滋が、「配給会社としてはこの作品を買わない。こんな作品を持っていったら俺はクビだよ!」と言う。
僕はある程度裸さえ出てくれば後は何を描いても良いと言うことで傑作が数多く生み出された”にっかつロマンポルノ”を思い出していた。
どんな世界であれ、作家はやはり自分の描きたいことを自由に描けないといけない。
映画世界においては当局の横やりに負けず、表現の自由を守りぬいて欲しい。
スゴイ役者さんが一杯出ている作品だけにちょっと残念な出来栄えだ。