おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

若者はゆく -続若者たち-

2023-06-19 07:22:20 | 映画
「若者はゆく -続若者たち-」 1969年 日本


監督 森川時久
出演 田中邦衛 橋本功 山本圭 佐藤オリエ 松山省二
   木村夏江 大塚道子 福田豊土 夏圭子 石立鉄男
   中野誠也 塚本信夫 浅若芳太郎 佐伯赫哉
   江守徹 原田芳雄 三谷昇 永井智雄 名古屋章

ストーリー
出稼ぎのまま帰らぬ父、残された母みきと、辰夫との密交渉。
純真な間崎ミツは、そんな母を許さず、自分自身だけを頼りに上京した。
東京で働き、学び、生活する若者たちがいるが、佐藤家の五兄弟もそのひとりひとりだ。
長兄の太郎は設計技師、親代りになって育てた弟妹も成長し、今では、マイホームを築くことに夢を託している。遠距離トラックの運転手次郎は、町子との結婚準備におおわらわだった。
だが、町子はかつて争議で苦労を共にした前労組指導者塚本との縁がきれず、闘いに疲れ争議団の金を持逃げした彼に気をもんでいた。
経済学専攻で理論家肌の大学生三郎は、金のためにあくせくする太郎にことあるごとに反発、全共闘入りし学園粉争で激突抗争を繰返えす親友小川とも対立していた。
そして、就職試験の失敗は、彼に深い挫折感を味あわせた。
働なきがら兄弟の母代りでいるオリエは太郎の部下の武から求婚されたが、脚が悪い被爆者の戸坂のことが心を離れなかった。
進学浪人の末弟末吉は、自動車のセールスでチャッカリ稼いでいた。
そんな頃、オリエの職場の同僚ミツがノイローゼ気味の東北出身のハルエをかばって職制と争い解雇されたため行き場のなくなった彼女をオリエは家に連れ帰った。
一方、太郎は虎の子の金を積んで契約した土地会社がつぶれ、そのショックから胃痙攣を起してしまい、佐藤家はそれをめぐって喧々諤々。
そこへ帰って来た三郎が視線をさけながら荷造りを始め、西表島に教師の口を見つけ発つという。
次郎もオリエも、末吉も皆反対した。


寸評
前作からの佐藤兄弟一家を引き継いでいるが、今回は間崎ミツという田舎から出てきた女性が重要人物として登場し佐藤家に住み込むことになる。
彼女の失職を巡る労働争議が盛り込まれるが、五人兄弟のエピソードも挟み込むために焦点がボケてしまっているのは前作と同様である。
ミツは同僚の女子行員をかばったばかりに工場を解雇されている。
自分が置かれた状況から逃げようとするミツを励まし裁判闘争に持ち込ませるのは三郎らしいし、同じ工場に居たことでオリエが関係し、復職運動を手伝うことで三郎もミツに関係してくる。
殻に閉じこもっていたミツが三郎によって前向きになっていくメインストーリーはそれなりに押さえられている。
父が出稼ぎに出たまま失踪したことで、母親が再婚を考えている男とのエピソードは泣かせるものがある。
ミツと男の夜を徹した語らいはないが、翌日に二人が別れる駅のホームのシーンはなかなかいい。

それに比べれば次郎やオリエに関わるエピソードは端折っている感じがする。
三郎が学生であることも有って学生運動のシーンが度々挿入されるが、それも世相を表す雰囲気作りにとどまっていて、僕にはあまり意味のないシーンに思えた。
次郎はオリエの中学時代からの友人である町子と結婚を考えていて、町子もその気でいるようなのだが、かつて結婚を約束しながら町子たちが作った職場の金を持ち逃げした塚本が現れ、町子に就職を頼んだことから腐れ縁が復活してしまう。
塚本は自殺をほのめかす弱い男なのだが、そんな塚本を町子は放っておけない。
気のいい次郎はどうやら町子の為に自分が保証人になって塚本の就職を手伝ったようなのだが、その様子は描かれていない。
再び塚本が会社の金を持ち逃げしたことで、次郎の口から語られるだけである。
献身的ともいえる次郎の町子への愛だと思うが、描かれ方は添え物的である。

太郎には彼を慕う武と言う同僚がいるが、オリエはその武からプロポーズされてまんざらでもなさそうだ。
しかしその後で、わかれた戸坂をデモ隊の中に発見し思わず駆け出してしまう。
前作を見ていなければその理由が全く理解できない行動である。
このシーンを描くなら、最低限オリエが今でも戸坂のことを忘れられないでいる様子を描き込んでおくべきだ。
武は太郎に挨拶に行くと言っていたが、それはどうなったのだろう。
武はオリエと戸坂の件について話し合ったのだろうか。

一方で太郎がミツに抱いている気持ちに対し、ミツはどう思っているのかが全く分からない。
もしかするとミツは三郎に気があるのかもしれない。
このシリーズは貧困に苦しんでいる下層の人々を描いているので、どうしてもお金の問題がついてくるし、太郎が悲哀を味わっている学歴社会への問題提起もあって、男女の愛情物語については深く描き込んでいない。
意図したものかもしれないが、描く以上は単なるストーリー上だけのものにしてほしくないと言う願望がある。
シリーズは兄弟たちの言い争いがほとんどと言っていいような会話劇だが、とりわけ山本圭の叫びが印象に残る。