おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

私の少女

2023-06-21 07:08:26 | 映画
「私の少女」 2014年 韓国    

                                 
監督 チョン・ジュリ       
出演 ペ・ドゥナ キム・セロン ソン・セビョク

ストーリー
小さな海辺の村。
ソウルから所長として赴任してきた若き女性警官のヨンナム(ぺ・ドゥナ)は、初日に14歳の少女ドヒ(キム・セロン)と出会う。
ドヒの実の母親は蒸発し、血のつながりのない継父ヨンハ(ソン・セビョク)とその母親である祖母と暮らしているが、ドヒの身体には無数の傷跡があり、日常的に暴力を受けているようであった。
村人は老人ばかりの集落で、若くして力を持つヨンハの横柄な態度を容認し、ドヒに対する暴力ですら見てみぬふりをしている。
そんな状況にひとり立ち向うヨンナムは、ドヒにとって暴力や学校のいじめから守ってくれる唯一の信頼できる大人であり、孤立していたヨンナムにとってもドヒの笑顔が心を癒してくれていた。
ある夜、ヨンナムの家にドヒが泣きながら訪ねてくるが、時を同じくして、老人の遺体発見との電話が署から入る。
海辺に駆けつけると、崖からドヒの祖母が落ちて死亡していた。
「パパとおばあさんが追いかけてきて落ちた」と涙ながらに説明するドヒ。
現場に到着したヨンハがドヒに殴りかかる。
エスカレートしていくヨンハの暴力から守るため、ヨンナムはドヒを一時的に自宅に引き取り面倒をみることにする。
やがて子供らしい無邪気な笑顔がドヒに戻ってくるが、次第にヨンナムと離れることを過剰に恐れ、激しくヨンナムに執着するようになり、そのあまりに過剰な反応にヨンナムは戸惑いを憶え始める。
そんな中、ヨンハは衝突を繰り返していたヨンナムの過去の秘密を知り、彼女を破滅させようと追い込んでいく。
ヨンナムを守るため、全てをかけてドヒはある決断をするが…。


寸評
女性監督であるチョン・ジュリは女性が逆境から立ち直る姿を描いているのだが、同時にサスペンス性と社会性をも兼ね備えた上質の作品に仕上げている。
韓国は血縁重視社会であることは伝え聞くが、血のつながっていないドヒは継父や祖母から「このクソガキ」とののしられて虐待されている。
それを黙認している村人たち、ひいては社会に疑問を持つが、チョン・ジュリ監督も一族だけの繁栄を願う韓国社会に警鐘を鳴らしているのだろう。
拡大解釈すれば、財閥の一族、及び財閥系会社に就職できたものだけが利益を得ている社会構造への批判だ。
村人たちは働き手がいなくなるからと不法滞在者の存在も黙認している。
ヨンハの横暴も仕事がなくなるからと受け入れている。
ヨンナムが赴任した村は見て見ぬふりをする社会が出来上がってしまっている。
ソウルの先輩はそんな村で目立ったことをするなと忠告する。
我々と同じ自由主義の国でありながらも、何処か違う韓国社会。
社会が黙認してしまっている不法移民や血縁重視社会の闇の部分をさりげなく描いていたような気がする。

一方のサスペンスとして、謎めいた事柄を明かさない手法がなかなかいい。
祖母の死因は事故死か殺害なのか?
それを追求するのではなく、あくまでも観客に疑問をもたせたまま最後まで描いていく姿勢がいい。
ヨンナムが飲んでいるのが酒であることは推測できるのだが、なぜ彼女がそうなのかも判明しない。
アル中とも思えるヨンハが酒を飲むと暴力的になるのに対し、ヨンナムは静かで、その対比がミステリー性を高めていく。
ヨンナムは問題を起こして左遷されたらしいことはすぐに描かれるが、その問題とは何であったのかはずっと秘められている。
もちろんそれが明らかになったところで物語は大きく展開するのは予想通りなのだが、その内容と知らされるタイミングは練られていて脚本の妙だ。

子供の怖さは時々描かれるテーマだが、ヨンナムの同僚の若い刑事が「ドヒはよく分からない、小さな怪物に見える時がある」というが、無垢の微笑みと罪人の周到な上目づかいをみせるキム・セロンもなかなかのものであった。
冒頭でカエルとテントウムシと戯れているドヒの姿が映されるが、それはそんな自然が残る田舎の象徴としてのシーンと受け止めていたが、見ていくうちに小動物と戯れる幼さと同時にある、一方をもう一方の餌食にする子供の残忍さの象徴だったのだと思い改めた。

「リンダ リンダ リンダ」「空気人形」のぺ・ドゥナは決して美人ではないが役に上手くはまり込むのは流石だ。
「私と行く?」のひとことは保護者と被保護者という関係を越えて結びついた瞬間だった。
赴任してきた道を帰っていく車の中で無防備に眠るドヒの姿は、過去を持つふたりに光があることを感じさせた。
こういう毛色の作品を送り出してくる韓国映画界は健在だと思わされた。