おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

若者の旗

2023-06-20 07:03:31 | 映画
「若者の旗」 1970年 日本


監督 森川時久
出演 田中邦衛 橋本功 山本圭 佐藤オリエ 松山省二
   石立鉄男 夏圭子 謙昭則 稲葉義男 入江洋佑 中谷一郎
   井口恭子 森幹太 益田ひろ子 高津住男 土屋靖雄 山口果林

ストーリー
佐藤家の五人兄弟はそれぞれにさまざまな問題をかかえて生きていた。
三郎は高等学校の教師をしていたが、校長と意見が合わずやめてしまい、今は昼間、出版社で働き、夜は夜間中学で教べんをとっていた。
社会の底辺に置かれ少年たちも、それぞれの悪環境と戦いながら勉学に励んでいた。
その中の一人、努少年は蒸発した父の借金返しに町工場でタダ働き同様に毎日を送っていた。
オリエは恋人と信じていた戸坂の病気を見舞ったが、そこで将来結婚を約束したという西田和子を紹介され、がく然となった。
戸坂は佐藤家を訪ねて自分の置かれている切実な状況を打ち明け、太郎や三郎に許しを乞うた。
オリエは悲しみにたえ、動揺する戸坂にいつまでも平和運動を続けようと励ました。
末吉は、今では会社内でも指折りの自動車セールスマンとして活躍し、所長の姪・みわと恋愛中だった。
独立してみわとの結婚も真剣に考え始めた末吉の稼ぎっぷりは、ますます猛烈になっていった。
同僚を裏切っても良心に恥じることさえ忘れた。
そんな末吉を見て、みわは「あなたという機械の部品にされるのはいやだ」といって去ってしまいそれからの末吉の行動はますます荒み、太郎や三郎との衝突も激しさを増していった。
一方、次郎は町子と口論を続けながらも桃太郎という愛児をもうけ、その生活ぶりはまずまず順調だった。
末吉は三郎の激しい説得にようやく自分の「金とセックスとバクチのために生きている」という生き方に疑問を感じ始め、次郎と町子の子供、桃太郎を見たとき自分の内に芽ばえてくる新しい生命力を感じ、今までの生活を考え直して、一から出なおす決心をした。


寸評
最終章にあたる今回の主人公は末っ子の末吉である。
彼は自動車販売会社に就職していて、人を踏みつけてでも車を売って売って売りまくっているトップ・セールスマンであるが、まるで金の亡者のようになっている。
恋人も出来ているが、相手を愛しているのか出世の為の打算で付き合っているのか分からない。
冒頭で夜間中学の教員をしている三郎が「今一番欲しいもの」と言うテーマを生徒たちに投げかけている。
末吉が一番欲しいものは「金」である。
三郎は環境改善によって得られる家庭の幸せだと言うが、三郎の言う環境改善とは所得の増加によって得られるよりよい生活ではないのか。
だとすれば末吉の言う「金」という答えにも一理あるのだが、末吉の態度はどこか狂っているように思われる。
そんな末吉に所長の姪でもあるみわは理解を示すが、やがてそのみわも愛想をつかすようになってしまう。
高度経済成長によって生み出されたモ-レツ社員の常軌を逸した精神構造を描いていて、前2作よりもテーマに切り込んでいると思っていたのだが、途中で当時問題となっていた公害問題を取ってつけたように持ち込んできたので僕はシラケてしまった。

オリエと戸坂の関係も被爆者問題によって破たんしてしまう。
戸坂は自分の健康問題を考えて、同じ被爆者である西田和子を選んでいるのであるが、被爆者の悩みや社会の無理解について描けていたとは言い難い。
三郎は被害者同士でしか一緒になれないと考えるのは後ろ向きだと主張するが、被爆者差別と自身の健康や生まれてくる子供のことを考えて悩んでいる被爆者の苦しみはもっと描かれるべきだ。
問題提起をするかのようなエピソードを持ち込んでくるのだが、それがどうしても見ている僕に届かない。
次郎の労災問題に関しても同様のことがいえる。
会社は次郎のギックリ腰は労災ではないと言い張っていて次郎と対立しているが、そもそも労災かどうかは会社が決めることではなく、労働基準監督署が決めることなのだから、次郎が本気で戦う気でいるなら労災申請を監督署に出せばいいではないかと思ったりする。
当然そこには会社の非協力的な妨害行為などが予想されるが、それを描いてこその労災問題だと思う。

次郎は町子と結婚していてもうすぐ子供が生まれるのだが、子供が生まれると今の住まいを出て行く必要があるようなのだが、それを含めて町子との生活がどのような状態なのかよく分からない。
町子との間に喧嘩が絶えないようなことも述べられているが、夫婦仲も含めて家庭状況は想像するしかない。
それでも桃太郎と名付けられる子供の誕生を映して希望を感じさせるが、桃太郎を見つめる末吉のこれからは、これまた想像するしかない。
末吉は香港かシンガポールへ行くのだろうか。
みわとの関係を修復させることができたのだろうか。
末吉は今の生き方や考え方を変えていくのだろうか。
出勤するサラリーマンの雑踏の中を末吉が相変わらず黙々と歩いているシーンで終わっている。
僕たちは想像するしかない。