おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

新・動く標的

2022-09-08 07:11:15 | 映画
「新・動く標的」 1975年 アメリカ


監督 スチュアート・ローゼンバーグ
出演 ポール・ニューマン ジョアン・ウッドワード
   アンソニー・フランシオサ マーレイ・ハミルトン
   メラニー・グリフィス コーラル・ブラウン

ストーリー
クールな頭脳と行動力で鳴らした一匹狼の私立探偵ルー・ハーパーのもとに、莫大な報酬で仕事をもってきた女は、驚いたことに数年前に1週間ばかり情事を楽しんだ相手でアイリス・デベローという石油王の跡継だった。
彼にその仕事を引き受けさせたのは、むしろアイリスの娘スカイラーの存在だった。
まだ16歳だというのに性的な退廃を感じさせる娘だった。
ハーパーはモーテルで彼女に誘惑され、その現場を刑事部長ブラウサードに見られて逮捕されたとき、彼は改めて無軌道な娘をもった母親の苦悩を思いアイリスの力になってやろうと決心した。
アイリスの身辺は複雑で、夫のジェームスは挫折した劇作家で、生活能力がまったくない男だった。
その彼の母親オリビア・デベローが大変な男まさりで、小さいときから息子を溺愛し、莫大な石油の権利も自分で握っていた。
その老婆が、ある日死体となって邸に近い入江に浮いているのを発見された。
事件の捜査を開始したハーパーの前に数人の容疑者が浮かんだ。
デベロー家の石油を以前から狙っていた石油屋のJ・J・キルバーン、その妻で男狂いのメービス、昔デベロー家の運転手をしていて今は油田で働いているパット・リービス、その恋人の娼婦グレッチェン、サディスティックな警部フランク……。
人々がまず疑ったのはキルバーンで、彼がリービスを使って老婆を襲わせたというのだが・・・。


寸評
「動く標的」の2作目だが、ルー・ハーパーという役名をなぜか覚えていた。
僕は1作目の「動く標的」をリアルタイムで見ているのだが、保存しているパンフレットの日付を見ると1966年7月22日とあるので、高校2年だった夏に見たことになる。
僕が見たポール・ニューマン主演の最初の映画で、この時のポール・ニューマンの仕草がつまらない動作なのにとてもカッコよくてたちまちファンになってしまったのだ。
おそらく、その事があってルー・ハーパーという役名が脳裏に刻まれたのだろう。
ハード・ボイルド映画として当時の僕はこの映画を存分に楽しめたと言う記憶はないが、ポール・ニューマンは洋画を見始めるきっかけを作ってくれた俳優の一人になったことだけは確かだ。

「新・動く標的」を見たのは公開から随分経ってからで、「動く標的」公開からはさらに時間が経っている。
したがって1作目の印象はおぼろげなものとなっていたが、シリーズ物の2作目の宿命なのか1作目ほどの発見は見いだせない平凡な出来栄えだ。
脚本がトレイシー・キーナン・ウィン、ロレンツォ・センプル・Jr、ウォルター・ヒルの3人となっていて、それぞれがどこを担当したのか、あるいは3人で練り上げたものなのかは知らないが、カモフラージュの大げさな事件が展開されながら、最後はプライベートなことで決着すると言うストーリー構成が面白みを欠いてしまっている。

石油利権が絡んでいるので、社会性が潜んでいるかと思えばそうでもない。
依頼者の女性が、その昔ルー・ハーパーといい関係だったようだが、6年ぶりの再会で再びロマンスが芽生えると言う展開もない。
女性の家庭の人間関係は複雑なものが存在しているが、その様子はほとんど描かれていなくて、依頼者のアイリスと夫との冷めきった関係、アイリスの義母オリビアへの感情、娘スカイラーの放蕩などは見ていて伝わってこないので、事件の背景がぼやけたものとなってしまっている。
ルー・ハーパーはアイリスに離婚すればと言うと、アイリスは「何のために?」と問い返す。
アイリスは義母に対しても「殺してやる」的な言葉をつぶやいているから、アイリスも財産に執着している女だと思われるが、なんだかヒロインのような描かれ方でギャップを感じる。
夫のジェームスの存在はほとんど無視されている。
やはり、脚本に甘さがある気がしてならない。
そしてこの手の話の常道として、怪しい奴は犯人ではないと言うことがあるので、脅迫文の差出人やオリビア殺害の犯人と思われる人物が早々に示されるが、多分それは真犯人ではないだろうと推測できてしまう。
それなら最後にアッと言わせる劇的展開が欲しいところだが、まったくもってあっけない。
そのようにストーリー的には面白みの少ない作品だが、撮影のゴードン・ウィリスだけは頑張っていて、ハード・ボイルド・サスペンスとしての画調は雰囲気を生み出している。
その雰囲気が最後まで見続けさせた要因だったような気がする。
弾が2発しか残っていない拳銃で脅かして口を割らせるシーンとか、閉じ込められた部屋から洪水のような水に乗って脱出するシーンなどの見せ場があるものの、結局、僕にとっては「動く標的」のポール・ニューマンが再びルー・ハーパーをやってスクリーンに再登場したと言うだけの作品になってしまった。