おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

白い恐怖

2022-09-06 07:15:49 | 映画
「白い恐怖」 1945年 アメリカ


監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演 イングリッド・バーグマン グレゴリー・ペック
   レオ・G・キャロル ジョン・エメリー
   ウォーレス・フォード ロンダ・フレミング

ストーリー
舞台はアメリカのバーモント州にある精神病院。
所長のマーチソンが辞め、新しくエドワーズ博士という人物が後任で来ることになった。
恋愛に興味がないと評判の女医コンスタンスは、歓迎会でエドワーズ博士を見た瞬間恋に落ちてしまう。
しかしコンスタンスが病院内に作るプールの説明を始めたところ、白地のテーブルクロスに書かれた線を見たエドワーズは不機嫌になってしまう。
翌日、父親を殺したと思い込んでいる患者ガームズを診療した後、コンスタンスはエドワーズに散歩に誘われ、
その日の夜、エドワーズが書いたサイン入りの本を読んだコンスタンスは所長室を訪ねた。
互いに惹かれていることが分かり抱き合う二人だったが、コンスタンスのガウンにあった縞模様を見たエドワーズに発作が起きてしまう。
その直後、ガームズが自殺未遂を起こしたという知らせが届いた。
手術室でエドワーズが錯乱状態になってしまいコンスタンスは介抱するが、彼が彼女に渡したサインとエドワーズが書いた本に記された著者のサインが違うことに気がつく。
正体を疑ったコンスタンスはエドワーズを詰問したところ、「自分がエドワーズを殺した」との一点張りで、彼は記憶喪失に陥っていた。
ただ彼の煙草入れにはJ.B.というイニシャルがあり、それが名前らしいということが判明する。
J.Bは置手紙を残してニューヨークへ逃亡、後を追ったコンスタンスは自身の恩師であるブルロフ博士のところへ連れていく。
ベッドの縞模様や洗面台にできる白地の縞模様を見て再び発作を起こすJ.B。
博士の治療で彼の発作はガブリエル・ヴァレーでの出来事が原因だと判明する。
コンスタンスと共にそこへ向かい、スキーをするうちにJ.B.は記憶を取り戻したのだが・・・。


寸評
雑なところもあるけれど、テキパキとストーリーを運んでいくので楽しめる。
早々にヒロインのイングリッド・バーグマンが登場し、やがて新任の院長としてグレゴリー・ペックが登場する。
病院の先生たちが集って食事をしている所で初めて対面したイングリッド・バーグマンとグレゴリー・ペックは一目で恋に落ちる。
いわゆる一目ぼれというやつだが、これはちょっと唐突過ぎる描き方でご都合主義に感じる。
そこでグレゴリー・ペックの異変が示され、いよいよミステリーの開始だとわかる展開はスムーズだ。
ところが、精神科病院のためかやたらと心理学的な説明や夢に対する説明が多くて、その場面になると間延び感を感じてしまう。
この時代ではフロイトに代表されるような心理学がもてはやされていたのかもしれず、それが映画にも反映されたのかもしれないなと思う。
その為に、グレゴリー・ペックが語る夢の幻想シーンで使用されるダリの作品があっという間の描写で終わったような気がした。

作品中で一番ハラハラさせるシーンとなっていているのがJ.Bとコンスタンスの恩師であるブルロフ博士が対峙する場面だ。
J.Bはひげを剃ろうとカミソリを手にしたところ、白の恐怖に次々と襲われる。
錯乱状態となって隣の部屋に行くと、そこにはブルロフ博士がいる。
博士の所に行った時のアングルは、J.Bが持ったカミソリ越しに博士の姿があり、今にも襲わんかなという雰囲気を醸し出すものである。
画面の手前に大きく映るカミソリがあり、J.Bの全身は画面になくカミソリを持つ手だけが見える。
そして差し出されたものはまたしても白の象徴でもあるミルクだ。
飲み干すミルクがJ.Bの視線でとらえられ画面をふさいでいく。
そして次のシーンで椅子に横たわっている博士が映し出される。
一連の流れるようなカメラワークには惚れ惚れするものがあり、思わず「上手い!」と叫びたくなる。

演じているのがグレゴリー・ペックなので、彼がエドワーズを殺していないことは分かっているものの、予想外の人が真犯人で「ああ、なるほど」と思わせるのだが、もう少し伏線があっても良かったように思う。
グレゴリー・ペックの幼児体験も納得できるものだが、描き方には物足りなさを感じる。
そもそもどのようにして記憶喪失になったのかが分からないので、記憶が戻る時のインパクトも弱い。
しかし、そこからもうひとひねりしているのはサスペンスとしては合格点だ。

この映画では完全にイングリッド・バーグマンがグレゴリー・ペックを凌駕していて、眼鏡をかけて理知的なイメージを出す彼女の魅力が前面に出ている。
逃亡劇においても彼女がリード役となっているし、刑事の前でも堂々たる態度を貫いている。
ラストシーンを見ると、彼らは本当のハネムーンに出かけるようなのだが、きっとこの夫婦はグレゴリー・ペックが尻に敷かれるのだろうなと思わせる。