おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

仁義なき戦い 広島死闘篇

2022-09-09 07:37:49 | 映画
「仁義なき戦い」は2019-08-15、「仁義なき戦い 代理戦争」は2021-04-06に紹介しています。

「仁義なき戦い 広島死闘篇」 1973年 日本


監督 深作欣二
出演 菅原文太 千葉真一 梶芽衣子 山城新伍 名和宏
   成田三樹夫 前田吟 木村俊恵 加藤嘉 汐路章
   室田日出男 八名信夫 小松方正 志賀勝 川谷拓三
   金子信雄 遠藤辰雄 小池朝雄 北大路欣也

ストーリー
1950年(昭和25年)、広島市。帰国直後に傷害事件で服役し出所した復員兵の山中正治(北大路欣也)は、村岡組組長・村岡常夫(名和宏)の姪で未亡人である上原靖子(梶芽衣子)が働く食堂で無銭飲食を働き、大友連合会会長の大友長次(加藤嘉)の息子で愚連隊を率いる大友勝利(千葉真一)のリンチを受ける。
勝利の狙いは村岡のショバ荒らしだったこともあり、長次が山中に詫び、その紹介で山中は村岡組組員となる。
靖子と男女の関係となった山中は村岡の逆鱗に触れ、若頭・松永(成田三樹夫)の指示で九州へ逃れる。
そこで山中は滞在先の組の対立者だった和田組組長(鈴木康弘)を射殺したことから、裏社会で大きく名が轟くこととなり、山中は広島への帰参を許され、靖子との交際も村岡の認める所となった。
一方、好関係にあった村岡組と大友組であったが日に日に資金力・組織力の差が広がりつつあった。
そして父と完全に袂を分かった勝利は、村岡の兄弟分の時森勘市(遠藤辰雄)を抱き込んで彼の跡目を受けるという形で博徒大友組を結成すると、自ら村岡組に乗り込んで村岡の命を狙ったが失敗する。
村岡組に命を狙われることとなった時森は呉の山守(金子信雄)を頼り、これを利用して広島に顔を立てたい山守は今は無関係の広能(菅原文太)に時森の身柄を預けた。
しばらくすると時森の命を狙う山中が広能の元を訪れる。
山中は刑務所時代に広能に目をかけられた恩義があるため強引には動かず、広能も広島の争いに呉や自分が巻き込まれることに嫌気がさし、時森を広島で引き渡すことで穏便に片付けようとする。
ところが時森がこの動きを事前に察知して広能と距離を置き、また大友にも知られてしまったため、広能は配下の島田(前田吟)に時森を殺させることで広島の抗争が呉に飛び火するのを未然に防ぐ。
時森の死により、後ろ盾を失くした勝利は広島から追放されることとなったが、寺田啓一(志賀勝)ら3人を密かに留め置き、村岡組襲撃の計画を立てていた。


寸評
「仁義なき戦い」は細かなことは描かずカメラが動き回るのが特徴的なシリーズであった。
登場人物が多いのも特徴だったが、しかしこの「仁義なき戦い 広島死闘篇」は北大路欣也の山中に焦点を絞っていて、シリーズの中では特異な存在となっている。
山中は九州で和田を射殺するが、それは山中にとって初めての殺人で、殺害後に震えながら口笛を吹く。
それが勝利の舎弟三人を殺害するときには堂々たるヒットマンとなっている。
予科練の歌である「若鷲の歌」の口笛が上手く使われて、山中のヤクザとしての成長を的確に示している。
山中は村岡の姪である靖子と愛し合うようになるが、他のシリーズ作品と違って二人の関係を丁寧に描いている。村岡が靖子を元の婚家に戻し、死んだ亭主の弟と再婚させようとしていることを刑務所で叔父貴にあたる高梨国松(小池朝雄)から聞いた山中は脱獄する。
山中を簡単に人を信じてしまう単純な男とし、若者の持つ単純さと純粋さが山中を破滅に向かわせる悲劇性を描きながら抗争をテンポよく描いていくので時間を忘れさせる。
村岡が山中と靖子の仲を知っていながら、靖子を婚家が望む死んだ亭主の弟との再婚を進めたのは靖子の幸せを願ってのことだと思われる。
靖子の再婚は村岡にとって政略的なものもなく、村岡に何ら利益になるものではないと推測される。
村岡はいい組長ではないが、姪の幸せは親代わりとして真面目に考えていたのだろう。
山中の脱走で疑わしい行動をとるが、広能が言うような理由を村岡も考えたのではないか。
本来なら悪役として描かれるはずの村岡が、それほど悪として描かれていないのは靖子への対応によっている。

シリーズの主演である菅原文太に北大路欣也を絡ませてストーリーが進んでいくが、強烈な印象を残すのが大友勝利を演じた千葉真一である。
大友勝利は超過激派の粗暴で下品な狂犬のような男なのだが、暴力性を体いっぱいに表現して迫力いっぱいの言葉を吐き続ける千葉真一の演技は一皮むけたものがある。
サングラスを常時掛けて眼を隠し、唇を裏返しにして糊付けした扮装は正にヤクザであり、愚連隊のリーダーとしての存在感が画面いっぱいに広がっている。
彼の演じた大友勝利のキャラクターはシリーズ中でも1、2を争うものだったと思うが、シリーズ中に千葉真一の再演はならず、「仁義なき戦い 完結編」では宍戸錠に代わっている。
山中は刑務所で靖子の事を話してくれた高梨を村岡のそそのかしによって射殺したが、松永より高梨の話が事実であったことを聞かされる。
松永は村岡組の若頭なのに、なぜ山中に事実を語ったのか疑問が残るところだが、ヤクザ世界の男たちには通じ合うものがあるのかもしれない。
山岡が警察の包囲網に追い詰められていってからの描写は見せるものがある。
特にラストに於ける北大路欣也の表情は彼の演技歴の中でも上位にランクされるものだと思う。
求められてのものかもしれないが大層な演技が多い北大路欣也にしては迫真の演技だった。
後日、山中の葬儀が村岡組長によって大々的に営まれる。
弔問に訪れた広能が山中を「任侠の鑑」と褒め称えて高笑いする山守たちを醜く感じ、彼が見せる悲しく死んでいった山中を偲ぶ表情も捨てがたい。