おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

マイライフ・アズ・ア・ドッグ

2021-11-27 08:31:24 | 映画
「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」 1985年 スウェーデン


監督 ラッセ・ハルストレム
出演 アントン・グランセリウス
   メリンダ・キナマン
   マンフレド・セルネル
   アンキ・リデン
   ラルフ・カールソン

ストーリー
幼いイングマルの心には元気な頃の母の姿が浮かぶ。
彼の母は病に侵され、今はやせ細っている。
おねしょをしたり、兄といさかいを起こして家の中で騒いだり、イングマルはやんちゃな男の子で母からいつも叱られていた。
夏の間イングマルは兄や飼い犬のシッカンとも離れて母方の弟のいる田舎町で過ごすことになった。
はじめは全く乗り気でなかったイングマルだったが、叔父一家やガラス工場のベリット、芸術家の男、サッカークラブのサガと緑の髪の毛のマンネなど楽しい人々に囲まれて充実した日々を過ごす。
夏があっという間に終わり、イングマルは地元に帰る。
早々に母に土産話を聞かせてやろうとするが、彼女の病状は芳しくなく、すぐに話を遮って眠りについてしまう。
病院に預けられたはずのシッカンも家にはおらず、イングマルが叔父の家に行っている間ずっと家には戻っていないようだった。
そのうち母は救急車で運ばれ入院してしまう。
イングマルには父がいたが、今は赤道エクアドルでバナナの出荷に携わっていて、すぐには戻ってこられない。
イングマルと兄は父方の弟の家で暮らすが、夫婦から迷惑がられて田舎で暮らすように手配される。
再び田舎町にやってきたイングマルだったが、もう一人の叔父は夏と状況が変わってしまったことを引き合いに出して、かつての同居人のお婆さんのところで寝泊まりするように言って聞かせた。
叔父の家の離れにある東屋でシッカンを引き取って一緒に暮らしたいと願うが、叔父の話では引き取り手のないシッカンはやむなく殺されてしまったらしい。


寸評
イングマルは星空を眺めながら自分の身を振り返っている。
思うことの一つは元気なころの母親ともっと話をしておけばよかったということである。
母親はうるさい存在だから、子供の頃には都合の良い時だけ甘える身勝手さがあるもので、イングマルも例外ではなく、独白は病弱で余り長話が出来なくなった母親に対する反省の気持ちだ。
そして、決して恵まれているとは言い難い家庭環境だが、もっと辛い目にあっている人がいるので自分はまだ恵まれていると思うことで、自分自身を慰めている。
色んな人を引き合いに出しているが、宇宙に行ったライカのことが何回か出てくる。
ライカは旧ソ連の宇宙船スプートニク2号に乗せられた犬の名前で、地球軌道を周回した最初の動物なのだが、スプートニク2号は大気圏再突入が不可能な設計だったので最初から死ぬことが分かっていた悲劇の犬である。
イングマルはそんなライカに比べれば、自分はまだマシな方だと思っているいじらしい子供である。

家族と別れなければならない少年、愛犬と引き裂かれ、その愛犬は殺されていると言う悲劇的な要素を交えながらも、主人公の友人や村の人々との出会いを通して、少年を中心にして人生そのものをユーモアを交えて描き、みずみずしいまでの美しさを感じさせる実に心温まる作品に仕上っている。
主人公のイングマルの時折り見せる何とも言えない笑顔が不思議な魅力となっている。
イングマルが預けられた叔父の家で経験することが輝きをもって描かれる。
僕も幼稚園に通園していた時に伯母の家に預けられていたのだが、母親が恋しいよりも、そこでの生活が楽しい気持ちの方が勝っていた。
遊び仲間が断然多かったし、実家に帰った小学生の時も夏休みに居候するのが待ち遠しかった。
イングマルもそこで新しい友達と仲良くなっていく。
特に男の子の恰好をしているサガという女の子との交流が楽しい。
この年齢にはよくあることだが、女の子は男勝りである。
サッカーをやらせれば上手いし、ボクシングだって男の子を圧倒する。
僕にも経験のあることで、かけっこをすれば僕より早い女の子がいたし、水泳をやれば模範になるのは女の子で、僕は悪い見本として泳がされた。

サガの胸が膨らみ始めたことの描写は微笑ましい。
子供とは言え異性への興味はあり、それが若い女性のベリットに向かうのも分らぬでもない。
リベットは彫刻家からヌードモデルを依頼されているが、変なことにならないようにイングマルをお目付け役として連れていくのだが、モデルとなって全裸でいるベリットを天井のガラス窓からのぞき込むシーンが可笑しい。
叔父さんの家にいるお爺さんは病床に伏せているが、女性下着の雑誌を内緒で見て楽しんでいるのが可笑しいエピソードであり、いつも屋根の修理をしている男や緑色の髪の毛の男の子など登場人物もユニークであるが、その存在に違和感がないのがいい。
再び叔父の家に厄介になることになるが、その時にはサガはすっかり女の子の服装になっている。
それでも相変わらず子供のあどけなさを持っていて、ボクシングで母国の選手が勝ったことに熱狂する大人たちを尻目にイングマルとサガが寄り添って眠る姿は、何事も乗り越えていく子供の可能性を感じさせる。