おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

フレンジー

2021-11-12 07:24:19 | 映画
「フレンジー」 1972年 イギリス / アメリカ


監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演 ジョン・フィンチ
   バリー・フォスター
   ビリー・ホワイトロー
   バーナード・クリビンス
   ジーン・マーシュ
   アンナ・マッセイ

ストーリー
ロンドンを流れるテムズ河岸に、首に縞柄のネクタイをまきつけた全裸の女の死体が打ちあげられた。
その頃、リチャード・ブラニーは勤め先の酒場をクビになり、友人のラスクのところにやってきた。
翌日、ラスクはブレンダのオフィスにロビンソンという偽名を使ってやってきてブレンダを凌辱した後、ネクタイで絞殺し帰って行ったのだが、数分後にブラニーが訪れ、鍵がかかっていたため引き返そうとする姿をブレンダの秘書が目撃していた為、ブラニーは殺人犯として追われる身になった。
ブラニーは酒場で一緒に働いていたバブスとホテルに泊まったが、支配人に通報され危機一髪で脱出した。
その途中、戦友のポーターに会いパリ行きを持ちかけられ、翌日ビクトリア駅で落ちあうことにした。
酒場をやめたバブスは、ラスクに自分の部屋があくから自由に使えと勧められ、彼女もラスクの手によってネクタイで絞殺された。
彼は、バブスの死体をジャガイモ袋につめてトラックに投げ込んだが、殺す間際にネクタイピンをもぎとられたことを知り、発車したトラックに飛び乗った。
かろうじてトラックを脱すると、開かれた袋からジャガイモが続々ころがり、深夜の路上にバブスの裸の死体が転がり落ちた。
オックスフォード警察は続々証拠固めを進め、ブラニーを追っていた。
バブスが殺されたことを知り、戦友からも見はなされたブラニーは救いをラスクに求め、青果市場へやってくる。
ラスクはブラニーを自分の部屋にかくまい、彼のバッグにバブスの服をつめ、警察に密告した。
ブラニーの無罪は立証できず判決を受けるが、オックスフォード警部は、最後まで“覚えていろラスク”とわめき続けるブラニーを思いだし、何かしっくりこなかった。
刑務所内で頭を打って病院に送られたブラニーは、ラスクに復讐するために病院を脱走。
この頃ラスクを調べ、証拠をつかみ始めた警部は、ブラニーの脱走を聞きラスクのアパートに向かった。
ブラニーは、ラスクのベッドを鉄棒でなぐりつけた。


寸評
この頃のヒッチコック作品はキレを欠いて面白くないものが多かったが、これは晩年の作品の中では面白く出来上がっていて鑑賞に堪える中身となっている。
連続ネクタイ絞殺事件の被害者の死体が発見されるシーンを発端に事件が展開されていく。
ヒッチコック作品では、作品のどこかにヒッチコック自身が登場するのだが、観客が内容よりもどこに登場するかに注目しすぎるので、終盤の作品では早い時期に登場するようになっている。
この作品でも始まってすぐの死体が流れてくる場面で聴衆の中に顔を見せている。
連続殺人はすでに起きているのだが、映画の中では流れ着いた女性死体が第1の犠牲者である。
 第2の犠牲者の場面では犯人が誰かが示される。
この犯人を描くためにブラニーに拘わる予備的なエピソードが描かれ、第2の事件はなかなか起きないのだが、このじれったいようなエピソードを描いたことが後ほど効いてくる。
ブラニーは連続殺人の容疑者として追われることになるのだが、当然観客は彼が犯人でないことは分かっていて、知らないのは警察を初めとする映画に登場する人々である。
ブラニーはパブをクビになり持ち金は無いに等しい。
10年間連れ添って離婚したブレンダを訪ね、彼女から食事をおごってもらう。
そこで興奮のあまりグラスを割ってしまうのだが、それも伏線の一つとなっている。
彼女は元夫を憐れんである行為を行っているのだが、そのことも冤罪の証拠になっていく。
翌日犯行直後にオフィスを訪れたブラニーは犯人と思われてしまう。
ちょっとした時間差なのだが、この描き方は目新しいものではない。
 描き方としていいのは第3の殺人シーンだ。
第1の殺人は死体だけを見せ、第2の殺人ではその詳細が描かれているのだが、第3の殺人では全くそれらしい場面は描かれず、カメラは移動しながら部屋の前から階段を下りて行き、外に出たカメラがグーンと引くと二人がいるであろう建物の窓が写しだされ、彼女も犠牲になったことを想像させる。
第1、第2があってこその第3のシーンなのだが、このショットはなかなか雰囲気があって素晴らしい。
犯人が証拠の品を取り返そうと悪戦苦闘するシーンも上手く描かれていて緊迫感がある。
 面白いのはオックスフォード刑事が食事しながら妻と事件を語る場面だ。
妻が腕をふるってテーブルに並べるのは、フランスをバカにしているのかと思いたくなるようなフランス料理で、正体不明の魚介類のスープ、豚足、ウズラの照り焼きなどで、元に戻したり無理やり口にいれたりしながら話を続けるのだが、内容は事件のあらすじを示すものであり、今後の展開を予測させるダイジェストとなっている。
妻は「10年も結婚していた元夫婦に相手を殺す情熱があると思うの? うちは8年だけどあなたはどう?」なんて案外とまともな意見を言うのである。
刑事は「お前のいうことは証拠がない」と反論するのだが、事件の証拠はすべてブラニーを犯人と断定するものばかりとの対比となっていて気の利いた会話である。
 この妻を演じるヴィヴィアン・マーチャントを初め、ブレンダのバーバラ・リー・ハントやバブスのアンナ・マッシーもごく普通の女性たちという雰囲気の女優である。
ヒッチコック作品に出演したイングリッド・バーグマンや、グレース・ケリーやキム・ノヴァクなどとは一線を画したリアリティのある女優を選んでいるのも成功の一因だと思う。