おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ブルージャスミン

2021-11-07 07:34:12 | 映画
「ブルージャスミン」 2013年 アメリカ


監督 ウディ・アレン
出演 ケイト・ブランシェット
   アレック・ボールドウィン
   ルイス・C・K
   ボビー・カナヴェイル
   アンドリュー・ダイス・クレイ
   サリー・ホーキンス

ストーリー
ジャスミンは実業家である夫ハルの元、ニューヨークでセレブとしての生活を満喫していた。
しかし、ハルは詐欺罪の発覚によって逮捕され、ジャスミンは財産を含む全てを失う。
大学在学中に結婚を理由に退学して以来、一切のキャリアを積んでこなかったジャスミンは生計を立てる術を持っていないので、しかたなくサンフランシスコに住む異母姉妹であるジンジャーの元へと身を寄せる。
ジンジャーはハルの詐欺が原因で前夫オーギーと離婚していた。
現在の婚約者であるチリとの同居を考えていたが、ジャスミンを一時的に家に置くことを理由に延期となり、それが理由でジャスミンとチリの関係は険悪なものとなる。
ジャスミンに早く自立して欲しいジンジャーが、ジャスミンの今後のキャリアについて考えを促すと、ジャスミンはチリの友人エディの紹介によって歯科医の受付の仕事を始める。
やがてジャスミンは歯科医であるフリッカー医師に思いを寄せられるが、勤務中に強引に迫られ、強く拒否すると共にその仕事をやめる。
傷心中のジャスミンは通っているパソコン教室の同級生にパーティに誘われ、外交官であるドワイトと出会い、交際を始めるが、気を引くために現在と過去を偽るウソを重ねてしまう。
ジャスミンの付き添いでパーティに参加したジンジャーも音響エンジニアのアルと出会い、浮気を始める。
ジャスミンとドワイトは婚約し、共に婚約指輪を買いに行くが、偶然居合わせたオーギーがジャスミンの過去を暴露してしまい婚約は破談となる。
ジンジャーも浮気相手のアルが実は婚約していると知り、破局ののちチリとよりを戻す。
ジャスミンはオーギーから得た情報から、かつての養子であるダニーに会いに行くが絶縁を告げられる。


寸評
ウディ・アレンらしさはあるものの、この映画は完全にケイト・ブランシェットの映画。
転落するセレブの人生を演じた演技は、まさに主演女優賞にふさわしいものだった。
一旦甘い生活を経験してしまうと、精神的にも習慣的にも、そこからなかなか抜け出すことができないのだろう。
セレブな生活を味わったことのない僕はその転落のギャップを心底わからないが、それでも自分の周りにはそれらしき人もいて、やはり人間性は変わっているようだ。
大抵の場合、下層の人の気持ちや生活ぶりを味わうことで人間的に丸くなっているようなのだが、ジャスミンはなかなかそうはなれなかったようだ。
過去の暮らしぶりが恋しくなったり、あるいは当時のプライドが未だに残ったりしている。
それがミエをはったり、あるいは人を見下すような態度に出てしまう嫌味な女になってしまっている。
最初は「お前は何様だ」だったり「やれやれ参ったな」といった気持ちだったのが、当時の愚痴を独り言で言ったりしているのを見ると、だんだんと彼女が滑稽で哀れに見えてきてしまう。

ジャスミンは無一文で血のつながっていない妹のところへ転がり込んでいるのだが、そこでの落ちぶれた生活と、かつてのセレブな生活が、まるでカットバクのように入れ代わり立ち代わり描かれる。
それを違和感なくつないでいるのが、未だに残るジャスミンのセレブ気分だ。
貧乏人のヒガミ、金持ちの鼻持ちならない嫌らしさはお互いに内在している。
両者ともそれを表に出さないが、本人のいないところではお互いにけなすような事を言っている。
相手のことを取り繕うように接しておきながら、その実秘めている蔑視の気持ちがチラチラと見え隠れする。
ジャスミンは下層の部類に入るジンジャー及びその関係者を見下して馬鹿にしている。
ジンジャーは姉は自分に都合の悪いことは見て見ぬふりをすると評し、自分たちのお金を損失させた当事者としてどこかで恨んでいる気持ちをぬぐいされないでいる。
この微妙な関係が面白おかしい。
妹ジンジャーの恋愛模様も面白いが、こちらは現実的な出来事と思えるのは僕が普通の平民なためだろうか。
ジャスミンの恋の行方もあるけれど、そんな出会いと展開ってあるのかと思うのも、これもまた平民の感覚からくる思いなのかもしれない。

かつてのセレブ転落を招いたジャスミンの行動をうまく組み合わせたクライマックスの展開は見事だ。
ウディ・アレンらしい持って行きかただ。
ハルとの仮面夫婦的なものがはがされ、ある意味で狂っていくジャスミンが描かれ、息子によって決定打を与えられる。
そこで目を覚ますか、人生をやり直すのが普通のパターンだが、ウディ・アレンはこの期に及んでもジャスミンにミエを張らせる。
その姿に思わず「この女は救えんなあ…」と思ってしまったが、そんなジャスミンを演じたケイト・ブランシェットに惜しみのない拍手だ。