おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

栄光のル・マン

2020-11-13 08:03:46 | 映画
「栄光のル・マン」 1971年 アメリカ


監督 リー・H・カッツィン
出演 スティーヴ・マックィーン
   ヘルガ・アンデルセン
   ジークフリート・ラウヒ
   ロナルド・リー=ハント
   リュック・メランダ
   フレッド・アルティナー

ストーリー
アメリカの国際級プロ・レーサー、マイク・デラニーは“ル・マン24時間レース”出場のため、ポルシェを駆ってル・マンに向かっていた。
金曜日、午前6時、とある寺院の前に一台のフェラーリを認めて中に入ったマイクは、そこに顔見知りの男女であるレーサーのクロード・オーラックとベルギーのグランプリ・レースで事故死したピエロ・ベルジェッティの妻モニクを見出したのだが、この事故でマイクも負傷していた。
夜、世界各国から集まったレーサーたちは町のバーで最後のひとときを楽しんでいる。
モニクを得意気にエスコートするオーラック。
彼は不用意にも事故のことを口に出して、マイクと気まずくなってしまう。
今度のレースでマイクが最もマークしているのはドイツ人エーリッヒ・ストーラーである。
彼のレースへの異常な執念、そして彼はフェラーリを運転する宿命のライバルだ。
いよいよ当日、午後3時51分、最後の点検が行われ、いま、午後4時、運命の旗は振られた。
全長約13.5キロのサーキットで24時間という長時間をテクニックと細心の注意力を駆使して乗り切るのである。
夜になって雨となり、雨はしだいに激しさを増し、最悪のコンディションになってきた。


寸評
車好きのスティーブ・マックイーンが、自ら率いるソーラー・プロダクションの総力をあげて作り上げた本格カーレース映画で、特に大きなドラマはなくル・マン24時間耐久レースをセミ・ドキュメンタリー風に撮っている。
製作開始当初、監督はジョン・スタージェスだったが、描き方でマックイーンとの間に確執がおこりスタージェスは途中降板することになった作品である。
スタージェスは人間ドラマの中にレースを持ち込むつもりだったようだが、マックイーン側はレースの中に人間ドラマを持ち込むことを主張したようだ。
実際この映画では大半がレースの模様でドラマは無いに等しいのだが、それでも最後まで固唾をのんで見させる迫力映像が素晴らしい。
冒頭のタイトルバックではル・マンの会場の様子とそこに集まってくる人々の様子を描いていて、人々の関心の高さと盛り上がっていく様子が感じ取れるいい映像となっている。
レースの開催日、前夜からできたテント村、幹線道路から数珠つなぎで乗り入れてくる観客の車、満車になった広大な駐車場、出場者のレースカーが搬入される様子などを捉えた映像がドキュメンタリーを感じさせる。
レース前に場内放送が流れ、365日の内363日は一般道として通行可能な道路をコースとして使用されることなどが説明され、レースとしてのル・マンの情報が提供され、自然と気分は盛り上がっていく。

ポルシェ・チームのデラニーとフェラーリ・チームのベルジェッティがレースで接触事故を起こし、デラニーは一命をとりとめたがベルジェッティが死亡したということが背景にあり、ベルジェッティの未亡人リサがル・マンの会場に来てデラニーと出会う。
それが唯一と言ってもいいドラマなのだが、それ以上の進展はない。
デラニーはリサに縁起でもないル・マンになんで来たのかと聞くと、リサは「自分のため」と答える。
ベルジェッティが事故にあったことをデラニーは「たいしたことじゃない、レースでは何度でも起こることだ」と言う。
リサは「命を賭けるなら他に大切なことがあるのでは。人より速く走ったとしてもそれでどうなるの?」と尋ねると、デラニーは「いい加減な人生ってけっこうあるものだ。何も取り柄がなく人より車を早くはせらせることができる者にとってレースは人生だ」と答える。
二人の間に微妙な視線が存在する。
それがこの映画のドラマ的な部分なのだから、ストーリーなどないようなものだ。

サーキットの外には遊園地があり、ル・マンを訪れた家族連れが幸せそうに遊具に乗っている。
芝生では恋人同士がキスを交わし、ベンチでは平和なおしゃべりをする観客がいる。
デラニーはレースが人生そのものだと言うが、カーレース以外に人生には楽しいことがこれほどあるのだと言ってるようでもあった。
ドラマとしてならマックイーンが最後に大逆転して終わりそうなところだが、ドラマを排除している本作ではそうはならない。
ラストにおいてもその姿勢は貫かれている。
しかし、カーレースだけを撮り続けてこれだけ見せる映画は、僕の知る限りにおいて他にはない。
その意味で、カーレース映画の傑作の部類に入る作品となっている。