おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

エディット・ピアフ~愛の讃歌~

2020-11-16 07:34:02 | 映画
「エディット・ピアフ~愛の讃歌~」 2007年 フランス / イギリス / チェコ


監督 オリヴィエ・ダアン
出演 マリオン・コティヤール
   シルヴィー・テステュー
   パスカル・グレゴリー
   エマニュエル・セニエ
   ジャン=ポール・ルーヴ
   ジェラール・ドパルデュー

ストーリー
1915年、フランス・パリの貧しい家庭に生まれたエディット・ジョヴァンナ・ガション。
母は路上で歌を歌い、日銭を稼ぐ毎日だった。
その後、祖母が経営する娼館に預けられた彼女は、娼婦ティティーヌたちに可愛がられ束の間の安らぎを得る。
やがて兵役から戻った父に引き取られると、路上で大道芸をする父の手伝いをする中で、自らも人前で歌うことを覚えるのだった。
そして1935年、路上で歌を歌い日銭を稼いでいた彼女は、パリ市内の名門クラブのオーナー、ルイ・ルプレにスカウトされ大きな転機を迎えた。
ルプレによってピアフと名付けられた彼女は、歌手としてデビューするや、瞬く間にスターダムへと駆け上っていくのだったが…。


寸評
映画は幼年期のピアフと、スターダムを駆け上がるピアフを交差させながら進んでいく。
悲惨とも思える幼年期の宿命を、名声を得ていく過程でも背負いつづけている事を暗示するような構成だ。

ピアフの伝記映画なのだろうけれど、忠実な伝記映画ではない。
交友のあったマレーネ・デートリッヒはほんの少しだけ登場するが、彼女と同日になくなったジャン・コクトーは会話の中でだけ登場し、彼女が世に送り出したイブ・モンタンやシャルル・アズナブールなども同様の扱い。
年数がたてば、誰、それ?となるのだろうが、かろうじて僕はマレーネ・デートリッヒを映画で見、イブ・モンタンも映画で見てその歌声も聞いたことがある。
シャンソンと言えばシャルル・アズナブールの名前が真っ先に思い浮かぶので、彼女、彼等の名前が出ただけで郷愁にかられてしまう。

1度目の結婚はさらりと描かれるが、2度目の結婚は描かれていない。
4度あったという交通事故もあまり重要視されていない。
もっともその事故がもとでモルヒネ中毒にかかった様子は描かれていたので、監督のオリヴィエ・ダアンは、ピアフの波乱に満ちた人生より、ピアフという人間そのものに興味を抱いたのかも知れない。

主演のマリオン・コティヤールはその期待に応える熱演、好演でピアフそのものだった。
ピアフの原音からとられた歌声は彼女が発しているようだった。
僕はそんなにシャンソンに造詣が深いわけではないのだが、この映画を見た後はシャンソン、特にエデット・ピアフの歌声を聴きたくなり急遽音楽CDを入手した。
そうせずにはいられないほど、この映画におけるピアフその人の歌声はハマっていたと思う。
故人は142センチの実に小柄な人だったようだが、そんなイメージもマリオン・コティヤールによって出されていたと思う。

神は歌う事以外の全てを奪い去ったかのようなピアフの人生なのだが、その神=聖テレーズも彼女を救い、クロスを最後まで手放さなかったのは、酒に溺れ、薬に犯され我儘な彼女の人間らしさを感じさせ切なくさえあった。
飛行機事故自体が極めて稀な出来事なのに、真に愛し合えたミドル・ウェイト級の世界チャンピオンのマルセル・セルダンがその飛行機事故で急逝する事実。
親交のあったコクトーが同日に亡くなる偶然。
4度までも自動車事故に出会う悲運など、彼女の一生は正しく事実は小説よりも奇なりの人生だった。
しかしそれでも、良い事もあれば悪い事あった。自分の人生に悔いはないと歌い上げる彼女の姿は万感迫るものがありスケールの大きな映画になっていた。

越路吹雪さんの功績もあって、日本では「愛の賛歌」が著名なので、邦題は「エディット・ピアフ 愛の賛歌」となったのだろうが、原題の「LA VIE EN ROSE」(バラ色の人生)の方が深みがあったのではないか。