おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

遠雷

2020-11-20 07:17:07 | 映画
「遠雷」 1981年 日本


監督 根岸吉太郎
出演 永島敏行 ジョニー大倉 石田えり 横山リエ
   ケーシー高峰 七尾伶子 原泉 藤田弓子
   蟹江敬三 高橋明 坂巻祥子 吉原正皓 江藤潤
   根岸明美 森本レオ 鹿沼えり 立松和平

ストーリー
満夫(永島敏行)は僅かな土地にしがみついてトマトを栽培している。
父親(ケーシー高峰)は先祖代々の土地を売って豪華な家を建てたが、今は家を出てバーの女、チイ(藤田弓子)と同棲している。
兄(森本レオ)も百姓を嫌って、東京でサラリーマンをしている。
家に残っているのは満夫と母(七尾伶子)と祖母(原泉)の三人だけだ。
日々のいらだちをトマト栽培にまぎらわす満夫にお見合の話がきた。
あや子(石田えり)という相手は、まんざらでもない女で、二人はその日にモーテルで抱き合った。
世話になった人が立候補するので、選挙の手伝いをするといって父が帰って来た。
母も父の浮気のことなど忘れて、調子に乗っている。
その頃、子供の時からの友人・広次(ジョニー大倉)がスナックの人妻カエデ(横山リエ)と駆け落ちした。
カエデは満夫のビニールハウスにトマトを買いに来たこともあり、関係を結んだこともある。
いらだつ満夫に、追いうちをかけるような事件が続いた。
トマトが大量発生したアブラムシで全滅し、そして父も選挙違反で警察にあげられてしまった。
あや子の父の希望で、村一番の盛大な結婚式をあげている晩、広次が帰ってきた。
ハウスの中でカエデを殺してきたと広次は告白しながら泣いた。
そして「稲刈り、頼んだぜや」と言い残して自首した。
警察を出た父はそのままチイとどこかへ行ってしまった。
残された満夫とあや子が腐ったトマトを燃していると不動産屋がやってきて土地を売ってくれと言う。


寸評
東京近郊だが農地はまだ残っていて、満男のビニールハウスもかなり広い。
宅地開発が進んでいて、ビニールハウスのすぐ向こうには公団住宅が立ち並んでいる。
トマトの枯葉を燃やした煙が団地のベランダに流れていく程に隣接していて、ベランダに干した洗濯物も見えるからよくこれで問題が起きないものだと思ってしまう。
満男は23歳の若者だが、他にやることがないからと言いながらも必死でこの農地を守っている。
父親は土地の一部を売り家を出て行ってしまっているが、百姓が土地を手放せばやることがない。
父親のいなかった僕の母親はコメ作りをする百姓で、土地を売却し家を建てたが、その後は生活の糧を得るために内職をすることしかできなかった。
満男は少なくとも土地を守って百姓を続けていく意思を持っているようであるが、かなりいい加減な男でもある。
スナックを営むカエデに誘われ、いとも簡単に関係を結んだかと思うと、見合いの相手の女性を当日にモーテルに連れ込んだりする男だ。
それに応じる女も女なのだが、娯楽の少ない田舎では、えてして取られる行動パターンのような気もする。
口うるさい田舎の筈なのに、案外とゴシップになるような男と女の事件を耳にするのだ。

都市化がすぐ近くまで迫っているのに、満男の家は時代に乗り遅れたような家庭である。
年老いた祖母と、亭主に出ていかれた母親がおり、二人は嫁と姑の争いを未だにやっている。
満男との結婚を考えているあや子はその様子を見て自信がなくなってしまうと言う。
あや子でなくてもそうだ。
僕も目にした嫁と姑、嫁と小姑の争いに子供心に嫌気がさしていたものだった。
結婚して母親と同居して、再び自らがその体験もしたから、あや子の気持ちは大いに理解できる。
それでもあや子はやって来るのだから、案外とあや子はしたたか女で、しっかり者なのかもしれない。

根岸吉太郎は日活ロマンポルノを10本程撮っているが、僕は1981年の「狂った果実」しか見ていない。
「狂った果実」はロマンポルノという気がしない作品で、むしろATGで撮ったこちらの方がロマンポルノっぽい。
たぶん満男がカエデやあや子と関係を結ぶシーンが多いせいだろう。
しかし内容的には田舎の男と女に漂う性と生を描いていて濃さがある。
満男を演じた永島敏行、あや子を演じた石田えりがなかなかいい。
特に石田えりの存在感は際立っている。
満男の友人である広次のジョニー大倉が殺人を告白するシーンは目を釘付けにさせるものがある。
ワンカットによる長回しでセリフも長い。
満男はいい女と出会えたが、広次はとんでもない女に引っかかったものだと同情してしまう。
間違えば自分がそうなっていたかもしれないと満男は言うが、男も女も一緒になった相手が悪ければ、不幸な道を歩むことになる。
事件を起こすか、別れるか、それとも別れることも出来ず嫌いながら一生を送るかだ。
この三人の役者はいい。
そしてこの映画、最後には満男とあや子夫婦に拍手と激励を送っている自分を感じさせてくれる。