おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

映画に愛をこめて アメリカの夜

2020-11-12 06:53:35 | 映画
「映画に愛をこめて アメリカの夜」 1973年 フランス イタリア


監督 フランソワ・トリュフォー
出演 ジャクリーン・ビセット
   ジャン・ピエール・オーモン
   ヴァレンティナ・コルテーゼ
   ジャン・シャンピオン
   ダニ
   ジャン=ピエール・レオ

ストーリー
青年が地下鉄の出口から出てくる。
カメラは彼を追っていくが、やがて広場の向こう側の歩道を歩いている男をとらえる。
青年が男をつかまえ、いきなりその顔に平手打ちを食わせる。
そこでフェラン監督の「カット!」の声。
いままでの映像は映画の撮影風景で、映画のタイトルは『パメラを紹介します』。
父親と息子の嫁が恋に落ちて駆け落ちしてしまう話だ。
映画撮影の進行を軸に、監督の苦悩と、様々な人間模様が描かれ、せっかく撮ったフィルムが現像所のミスで台なしになったり、キャメラの前で演じる恋を実生活の中にまでもち込んでしまって、どうやら一時は本物とお芝居の区別がつかなくなる出演者がいたり、撮影途中で出演者の一人が自動車事故で死んでしまうなどのトラブル続きで撮影は進行する。
撮影が終了し、TVレポーターがやってきて大道具係にマイクを向けた。
“撮影中に何か困難な問題は起きませんでしたか?”という質問だ。
大道具係は微笑を浮かべてそれに答えた。
“なにもかもうまくいったよ。我々がこの映画を楽しんで作ったように、お客さんもこの映画を楽しんで見てくれれば、それでもう何もいうことはない……”と。


寸評
アルフォンスを巡る女性関係が断片的に描かれてはいるがストーリーは有って無いようなものである。
映画ってこんな風にして撮られていくんだと、映画ファンにとっては楽しい作品となっている。
冒頭で起きることは映画の撮影シーンだと分かるが、同じ場面を何回も撮り直すことになる。
市中ロケではなく全ての人がエキストラで、老若男女入り混じった大勢の人たちが撮り直しをするたびに元の位置から只行きかうだけの演技を行っているというもので、監督役はフランソワ・トリュフォーその人自身である。
小道具係がライトが仕込まれたロウソクを持ってきて、ロウソクの火で顔が照らされたように見えると監督に説明するシーンがあるが、これなども小道具の面白さを観客に教えてくれている。
向かいの部屋から両親のいる家に語り掛ける場面ではセットの面白さが描かれているし、大量の泡をまき散らして雪が積もった後の町を作り出したりするトリックも興味をそそる。
「へえ~、こういうシーンはこんな風にして撮られているんだ」と思って見ると実に楽しい映画だ。

多分映画作りはトラブルの連続なのだろう。
描かれたようなトラブルが一つの作品でずっと起きているわけではなかろうが、そのどれもが撮影現場で起きていることなのだろうなと思わせる。
主演女優の到着が遅れてスケジュール変更、現像に回していたフィルムがダメになり撮り直しを余儀なくされる。
秘書役の女優はプールで泳ぐシーンを追加されたが、水着になるのを嫌がったことから妊娠がバレ、撮影スケジュールの加減で彼女が再登場するのは5週間先ということで、妊婦であることが丸わかりとなることから監督は代役を考えるが、プロデューサーは契約違反になると言い出す。
主演男優は行方不明となり、主演女優も「カントリーバターを食べたい」と我儘を言い出す。

ドラマと言えるのはジャン=ピエール・レオが演じるアルフォンスが引き起こす女性問題。
彼は彼女と一緒にいたいがために、彼女をスタッフにしてもらっていたのだが、結局彼女はスタントマンと出来て去ってしまい、落ち込んだアルフォンスを慰めるために夫のいるジュリーは彼と一夜を共にしてしまう。
ジュリーのおかげで残る気になったバカなアルフォンスは“奥さんと寝たので離婚してください”とジュリーの夫であるネルソン博士に電話をかけてしまうという内容で、話自体は他愛のないものとなっている。
ジャン=ピエール・レオはトリュフォーの映画に少年の頃から出続けているが、こういう軽薄な役がよく似合う。

映画ファンを楽しませるのは撮影風景だけではない。
フェラン監督が見る夢の中で、少年がステッキを利用して盗むスチル写真は「市民ケーン」だったりするのだが、一瞬写るスチル写真は名作映画のもので、映画ファンならどこかで見たことがあるものばかりだ。
またフェラン監督が注文した本が届くシーンでは、包装が解かれると出てくるのはルイス・ブニュエル、イングマル・ベルイマン、ジャン・リュック・ゴダール、アルフレッド・ヒッチコック、ハワード・ホークス、ロベルト・ロッセリーニ、ロベール・ブレッソンなどの本で、これもほんの一瞬だけ映るのだが、名前を発見するだけで何故だか嬉しくなってしまうから不思議だ。
インタビューを受ける小道具係が最後で「何もかもうまくいったよ。僕たちが楽しんだように観客も楽しんでくれたらいい」という。 ホント、映画っていいですねえ。