おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

運命じゃない人

2020-11-10 07:54:19 | 映画
「運命じゃない人」 2004年 日本


監督 内田けんじ
出演 中村靖日 霧島れいか 山中聡
   山下規介 板谷由夏 眞島英和
   近松仁 杉内貴 北野恒安 法福法彦

ストーリー
婚約破棄となり、二人で住む家を出てきた桑田真紀(霧島れいか)。
婚約指輪を質屋に持って行ったが3500円にしかならず、一人入ったレストランはカップル、家族、友達同士でにぎわっている。
寂しさがこみ上げて今に泣きそうだ。

サラリーマンの宮田 武(中村靖日)は、頼まれ事は断れず、すぐに人を信じてしまう典型的ないい人。
結婚前提でマンションを購入した途端、行方知れずになってしまった前の彼女・あゆみ(板谷由夏)のことでさえ、心配しているほどの人の良さだ。

そんな宮田の親友で私立探偵の神田(山中聡)は、宮田のことが歯がゆくて仕方がない。
いつまでも前の彼女とのことを引きずっていても仕方がないと、宮田のために女の子をナンパしてやる。
それはレストランで一人で寂しそうに食事をしている真紀だった。

泊まる家もない真紀に、宮田は自分の家に泊まるようすすめ、二人は宮田の家に帰っていく。
そこに行方知れずだったあゆみが現われる。
あゆみのあまりの身勝手な言動に、真紀はあきれて宮田の家をでていってしまう。
宮田は追いかけ、勇気を振り絞り真紀の電話番号を聞くことに成功する。
宮田にとってはちょっと勇気を出した一晩。
しかし実は彼を取り巻く人々、真紀、神田、あゆみ、そして、あゆみの現在の恋人である浅井(山下規介)の視点から見た一晩はまったく違う夜だった。
複雑な人間関係に、浅井の金2000万円が加わり、事態は誰も予想がつかない方向へと転がっていたのだ──


寸評
二重、三重に張り巡らされたタイムスパイラルの構成が非情に面白い。
「あっそうか、そういう事だったんだ」と何度も知らされる。
したがって同じシーンに同じセリフが何カットも繰り返される事になるが、その間隔が計算され尽くしているような時間で反復されて心地よい感覚をもたらす。
登場人物のすべてが一晩のうちに出会ったり、すれ違ったりで、何らかの関係を持ちながら時間が経過していく。

交わされる会話も、当人が真面目に話すだけに、思わず笑ってしまう内容で、会話にも引き込まれてしまう内容だ。
ベテランの漫才を聞くような感覚で、抜群の”間”なのだ。
神田を補足したヤクザが、宮田からかかってきた携帯に答えた内容に「お前、何をヤバイ話してんだよ」とすごむ。
前後の経緯を知らされた観客としては大笑いする会話だけど、当の本人達は至極当然の顔をしてる。
それが又おかしいのだ。
神田が宮田に言う「電話番号をなめんなよ。あの11桁の数字を知っているか、知らないかで、あかの他人かそうでないかを分けるんだから」とか「三十超えたら、運命の出会いとか自然の出会いとかいっさいないから。もうクラス替えとか、文化祭とかないんだよ。」とかも同様で、神田は必死でアドバイスしてるんだけれど、その必死さの分だけ観客は笑ってしまうのだ。
その事を懇々と語って聞かせるときの、ウェイターが見せる自分にも言われているような気になったかのようなちょっとした態度にも笑わされる。
人の係わりに細かい所にまで神経を使っていて、神田がヤクザと出会う場面で、そのウェイターがトイレから出てくるシーンなどはその一例だ。

登場人物はどこか憎めない連中なのも、常套手段といえばそれまでだが、作品の雰囲気を盛り上げている。
あゆみは金の亡者なんだろうけど、どこかいい女ぽいし、ヤクザの組長の浅井は当然ながら悪人の代表なのだが、どこか世の中知りぬいた大人の雰囲気を持っている。
便利屋の山ちゃんは、見せ金作りをやったかと思ったら、他人の家のドアを簡単に開けてしまう犯罪まがいのことを、仕事内容の一環として淡々とやってしまう。
私立探偵の神田は金にシビアそうなんだけど、宮田やあゆみのことを本当に心配してやったりする。
その代表者が宮田で、最後の最後まで真紀のことを信じてるし、あゆみの真の姿を知らないで荷物の世話をしたりする。
その宮田の純真さに応えるように、真紀があゆみのようになりかけながらも引き返してくることを暗示するラストは良かったと思う。
僕も宮田と同じで、人間を信じたいし、皆良い人で終わる映画のほうが好きだな。
最初の方で登場した会社の先輩が出てこなくて気になっていたが、やはり最後に出てきた。
これも常套手段といえば常套手段かな。
でも解っていても面白い。

レストランのシーンと、宮田が帰宅した時ののマンションのシーンをすべてのシーンの中心に置いた構成は中々巧みだ。
この手の映画は組み立て=脚本が相当ウェイトを占めると思うのだが、脚本も手がける内田けんじの力量は大したものだ。