おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

レ・ミゼラブル

2020-07-28 08:10:22 | 映画
「レ・ミゼラブル」 2012年 イギリス


監督 トム・フーパー
出演 ヒュー・ジャックマン
   ラッセル・クロウ
   アン・ハサウェイ
   アマンダ・サイフリッド
   エディ・レッドメイン
   アーロン・トゥヴェイト

ストーリー
格差と貧困にあえぐ民衆が自由を求めて立ちあがろうとしていた19世紀のフランス。
ジャン・バルジャン(ヒュー・ジャックマン)は、パンを盗んだ罪で19年間投獄され監獄の中で生きた。
仮釈放されたものの生活に行き詰まり、施しをしてくれた教会で再び盗みを働いてしまい警官につかまるが、その罪を見逃し赦してくれた司教(コルム・ウィルキンソン)の優しさにに触れ、生まれ変わろうと決意する。
過去を捨て、マドレーヌと名前も変えながらも正しくあろうと自らを律して生きていくバルジャン。
工場主として成功を収め、市長の地位に上り詰めたバルジャンだったが、法に忠誠を誓う警官のジャベール(ラッセル・クロウ)は彼を執拗に追いかけてくるのだった。
そんな中、以前バルジャンの工場で働いていて、娘を養うため極貧生活を送るファンテーヌ(アン・ハサウェイ)と知り合い、バルジャンは彼女の幼い娘コゼット(イザベル・アレン)の未来を託される。
コゼットは宿屋を営むテナルディエ夫婦(サシャ・バロン・コーエン、ヘレナ・ボナム・カーター)によって虐待されていたが、バルジャンは夫婦に金を払いコゼットを引き取る。
ジャベールは市長がバルジャンだと見抜きパリ警察に照会していたが、バルジャンが逮捕され裁判を受けるとの知らせを受け取り、市長を疑ったことを詫びた。
バルジャン逮捕の知らせを耳にした彼は、法廷で自分の正体を明かし再び追われることになり、ジャベールの追跡をかわしてコゼットを連れてパリへ逃亡する。
バルジャンはコゼット(アマンダ・セイフライド)に限りない愛を注ぎ、父親として美しい娘に育てあげていた。
だが、パリの下町で革命を志す学生たちが蜂起する事件が勃発、マリウス(エディ・レッドメイン)はリーダーのアンジェルラス(アーロン・トヴェイト)と共に戦っていた。
マリウスと出会ったコゼットたちはたちまち恋に落ちるが、テナルディエ夫婦の娘であるエボニーヌ(サマンサ・バークス)は秘かにマリウスを慕っていた。


寸評
ビクトル・ユーゴーの「レ・ミゼラブル(ああ無情)」は僕が知る数少ない外国小説の一つである。
小説自体を読んだわけではなく、作家名と作品名を知っているということで、トルストイの「戦争と平和」、ドストエフスキーの「罪と罰」、ヘミングウェイの「老人と海」などと変わらない。
主人公のジャン・バルジャンは知っていても、彼を追いかけるジャベールの名前は記憶にない。
パン1枚を盗んだ罪で投獄され、脱獄を繰り返したために19年間も服役したという内容だけが、なぜか知識として持っていた。
原作物の映画化は無知な僕に小説のあらすじを提供してくれるのでありがたい。
それが文学史上の名作となれば、ずぼら性の僕には尚更である。
原作にある少年から金を盗むエピソードや、数度に渡る脱獄などは割愛されているとのことだが、ミュージカル形式で描かれる内容は十分に鑑賞に堪えうる内容だ。

映画ならではのスケールで圧倒される。
冒頭の囚人の労働場面の迫力などはなかなか日本映画では見られないし、その他にも後半の民衆の蜂起など迫力のシーンが満載で映画らしい。
時系列を相当省略してその間のエピソードを割愛していることは想像できるが、オペレッタ仕立てなので原作に盛り込まれたエピソードをすべて描いていたら時間がいくらあっても足りないということになっただろうから、それもやむを得なかったのだろう。
ただそのために人生の悲惨さ、無情さは薄まってしまっているように思われる。
割愛されたエピソードによるものが大きいし、マリウスが危篤状態のバルジャンのもとに駆けつける経緯も美談にすぎる描き方となってしまっていた。
原作のあらすじを読むと中身はもっと深いような気がした(ここでも僕はずぼらで、あらすじしか読んでいない)。
目立った曲目やダンスナンバーが有るわけではないが、ミュージカル映画としてのツボはしっかりと押さえられている安心できる内容で、映画版と思えば納得できる出来栄えである。

ラッセル・クロウが驚いたことに歌がうまい。
この映画で一番印象に残ったのが、このラッセル・クロウの歌声だった。
オペレッタで全編歌で語り継がれるが、その音楽と映像が見事で158分と言う長尺を感じさせない。
その正統性が2時間半を一気に見せた理由だと思う。
ジャン・バルジャンの愛の他、ファンテーヌ、コゼット、マリウス、エポニーヌのそれぞれの愛や愛おしさも伝わってきて、映画館で見た時には両隣のご婦人二人は終盤にかかるとハンケチを盛んに目に運んでおられた。
僕はエポニーヌの秘めた愛が心にしみた。
エポニーヌは狡猾なテナルディエ夫婦の娘で、幼い頃にコゼットと共に暮らした仲である。
大人になって立場は逆転していて、エポニーヌは貧しい生活に甘んじているが、性格は両親に似ず純真だ。
その彼女がコゼットを愛し始めたマリウスに秘かな恋心を抱いているという人生の皮肉。
秘めた愛で献身的に尽くしながら死んでいくエポニーヌこそ無情な人生の代表だったように感じる。
前半と同じ足元を映すシーンを挿入しながら描いたジャベールの投身自殺シーンも映画的だった。