おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ルーム

2020-07-22 09:12:13 | 映画
「る」になりますが「る」は一つしか思い当たりませんでした。

「ルーム」 2015年 アイルランド / カナダ


監督 レニー・アブラハムソン
出演 ブリー・ラーソン
ジェイコブ・トレンブレイ
ジョーン・アレン
ショーン・ブリジャース
ウィリアム・H・メイシー
トム・マッカムス

ストーリー
5歳の誕生日を迎えたジャックは、狭い部屋に母親と2人で暮らしていた。
外の景色は天窓から見える空だけ。
母親からは部屋の外には何もないと教えられ、部屋の中が世界の全てだと信じていた。
夜、二人がオールド・ニックと呼んでいる男がやってきて、服や食料を置いていく。
ママは7年前にこの男に誘拐されて監禁されていて、ジャックはこの男との子供だったのだ。
男が来るとジャックはママの言いつけで洋服ダンスの中にいる。
ママは「息子にもっと栄養を」と抗議するが、半年前から失業して金がないとオールド・ニックは逆ギレする。
さらに真夜中にジャックがタンスから出てきたことで、ママとオールド・ニックは争う。
翌朝、部屋の電気が切られ寒さに震えるなか、生まれてから一歩も外へ出たことがないジャックに、ママは真実を語る。
ママの名前はジョイで、さらに外には広い世界があると聞いたジャックは混乱する。
電気が回復した部屋で考えを巡らせたジャックは、オールド・ニックをやっつけようとママに持ち掛ける。
しかし、ドアのカギの暗証番号はオールド・ニックしか知らない。
ママは『モンテ・クリスト伯』からヒントを得て、死んだフリをして運び出させることを思いつく。
ママは、“ハンモックのある家と、バアバとジイジがいる世界”をきっと気に入ると励ます。
脱出劇は失敗しかけるが、ジャックの記憶力と出会った人たちの機転で思わぬ展開を迎える。
翌朝、ママとジャックは病院で目覚める。
ママの父親と母親が駆けつけるが、二人が離婚したことを知ってママはショックを受ける。
数日の入院後、二人はバアバと新しいパートナーのレオが暮らす家へ行く。
しかし意外な出来事が次々とママに襲い掛かる。
一方、新しい世界を楽しみ始めたジャックは、傷ついたママのためにある決意をする…。


寸評
日本でも子供が誘拐されて何年も軟禁状態に会いながら脱出し救助されたとのニュースを時々目にする。
ジョイに起きたことはもっと悲惨で、ジョイはその男に犯され子供を出産し、今もその男の慰み者となっていたのだ。
予備知識なしに見ていると冒頭の様子は仲の良い親子のやり取りのように見える。
やがてこの親子が監禁されていることが判明し、少女と思えた子供も実は男の子であることが分かる。
ジョイは部屋の外には何もなくて部屋の中だけが真実だと教えていくが、ジャックはテレビを見て知識と想像を膨らませていく。
監禁によるイライラから親子は時々ぶつかるが愛情でつながっていることが読み取れる。
悲惨な状況をこれ見よがしに見せるとか、脱出を試みるスリルを見せつけるとしないで、冷徹な目で二人の様子を描いていく演出は素晴らしいものがあった。

オールド・ニックが登場すると異常な生活が浮き彫りとなるのだが、狭い納屋が監禁場所なので男が来るとジャックは小さなタンスの中に入る。
タンスの隙間からのぞき見する様子もゾッとさせられるものだ。
男はジョイの体目当てにやってくるが、ジャックにはその行為を見せるわけにはいかない。
その為にジャックをタンスに入れているし、はやく事を終わらせるようにしている。
ジャックを守ろうとする母親の姿が痛々しい。

サスペンス劇なら、二人がどのようにしてここから脱出するのかに力点が移っていくのだが、本作ではそこを物語のピークとはしていない。
男に対する憎しみも湧いてくるし、ジャックの脱出へのトライもスリルがあり、母子が再会するシーンにも感動するのだが、それは前半の終わりに過ぎない。
それはあくまでも一つのターニングポイントで、そこからは無事に脱出した二人が部屋の外の世界に適応できず悩み苦しむ日々が描かれて、ここからが本題なのだという構成で描き方は秀逸だ。

第一は7年の間にジョイの両親が離婚していたことだ。
ジョイはその事実に困惑するし、父親はジョイ親子にどう接していいか戸惑う。
娘のジョイは、自分が苦しんでいた時に母親は楽しんでいたのだと責める。
母親は苦しんでいたのは貴方だけだったのかと叫ぶ。
両親の離婚は娘の誘拐事件に原因があったのではないかと想像させる上手いシーンだ。
マスコミも興味が先行する対応で、父親のことをどう話すのかと詰め寄るが、ジョイはこの子の親は自分だけだと突っぱねる。
それも狙いであったのだろうが、僕はマスコミの態度に嫌悪感を覚えた。
同情しているようでもありながら、市民も含め当事者以外は興味本位でしか事件を見ていないということへの弾劾でもある。

もちろんメインは初めての世界に溶け込んでいくジャックの成長だ。
脱出時にトラックの荷台から見上げた空が、部屋の天窓から見上げたものと違う驚きの表情に感動する。
何事も母に頼るジャックの姿、バアバとの交流、レオとの触れ合いなどをキッチリと丁寧に描いていく。
母の起こした事故にジャックが取る態度は彼の変化を感じ取らせるし、母に依存していた彼が母親よりも友人を選択する姿で彼の成長を物語った。
この些細な演出に僕は唸ってしまう。
ラストシーンは物理的に自由になっただけでなく、心も解放されたことを暗示する。
かつての記憶と対峙する二人を抑制的に描き、新たな世界に歩き出そうとする姿は中盤の脱出劇とは違う静かな感動をもたらした。