おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

理由

2020-07-16 08:59:53 | 映画
「理由」 2004年 日本


監督 大林宣彦
出演 村田雄浩 寺島咲 岸部一徳
   大和田伸也 久本雅美 宝生舞
   松田美由紀 赤座美代子 風吹ジュン
   山田辰夫 渡辺裕之 柄本明
   渡辺えり子 菅井きん 小林聡美
   古手川祐子 加瀬亮 左時枝
   ベンガル 厚木拓郎

ストーリー
東京都荒川区で起きた、一家4人殺害事件。
容疑者の石田直澄が、簡易宿泊所の片倉ハウスに宿泊していると通報があり、江東区の交番巡査、石田は現場へ走った。
事件が起きたのは3ヶ月前。
東京23区に大雨洪水警報が発令された深夜未明、高層マンションの20階、2025室から男が転落した。
部屋には世帯主の小糸信治、妻の静子と、身元不明の老婆の死体があり、警察は殺人事件として捜査を始める。
しかし、殺された4人は小糸家とすっかり入れ替わったあかの他人同士で、それぞれ一切の血縁関係がない事が判明する。
では殺された4人は、一体誰なのか?
そして犯人は…?


寸評
1996年9月から新聞で連載され、1998年の直木賞を受賞した宮部みゆきのミステリー小説「理由」が、BSドラマ放送を経て映画化された。
テレビ用のドラマが劇場版として登場した秀作といえば、スピルバーグの「激突」を思い出す。
こちらも、それに負けず劣らず中々の秀作だ。
物語は、原作同様にルポタージュ形式で進み、登場人物の証言によって構成されていく。
登場人物が多くて、そしてそれらの人物がカメラに向かって語りかける一人芝居に圧倒される。
「俳優さんってすごいなあー」と変なところで感心してしまった。
その演出方法や、映画化のテロップと共に撮影シーンが写される場面などが映画的で心地よかった。
殺されたお婆さんの娘二人がタクシーに乗り込む所で、登場してから一言もしゃべらせないで、最後に一瞬ストッキングの伝染を映し出す場面などは、親子関係の冷たさとと子供の多分裕福でない経済環境を、無言のうちに物語っていて思わず上手いと唸ってしまった。
バブルに踊った人は多くいて、天国を見た人と、そしてそれと同じだけ地獄を味わったいた人もいたはずだ。
こと金銭に限れば、誰かが儲けて誰かがその分損をしている。
それが自由経済だと言えばそれまでなのだが、バブル経済と後日呼ばれるようになったあの時期に、そんな中で翻弄された人は多かったはずだ。
土地・家屋がらみで、一ヶ月も経たないうちに何百万も儲けた人を、僕の周りだけでも二人は知っている。
そんな時代だったのだ。
多分、この映画に登場する居座り屋なる人も数多く登場していたと思う。
多くは暴力団の組員だったのだろうけれど、この映画のような人生の悲哀を持った人々も居たのかも知れない。
実際にバブル期を実社会で生きた人間としては納得してしまう出来事の様に思えた。
そして最後に 警察に通報に走る片倉信子が「何で私が泣いてるのよ」と呟く場面では、僕だって不覚にも涙していた。
涙を誘う場面ではなかったと思うが、何故だか自然と涙が湧き出した。
何だか切ない話だけれど、片倉信子と小糸孝弘の存在が、家族や家と言うものへの希望を感じさせてくれたのも良かったと思う。
交番へ通報に行く信子が、履くのを嫌がっていた両親が経営する旅館の下駄を履き、父親を守るために握り締めた傘を再び持って出てゆくところなどは、知らず知らず気持ちの上で彼女と同化していたのかも知れない。
全くのあかの他人がそこに住み着くようになった理由、また四人が殺されるに至った理由が、インタビューを通じて、その人間関係と共に一気に解き明かされていく手法は見事なものがある。