おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ラブホテル

2020-07-08 06:22:41 | 映画
「ラブホテル」 1985年 日本


監督 相米慎二
出演 速水典子 寺田農 志水季里子
   益富信孝 中川梨絵 尾美としのり
   木之元亮 伊武雅刀 佐藤浩市

ストーリー
経営していた小さな出版社が倒産し、取り立てヤクザに妻の良子(志水季里子)を犯された村木(寺田農)は人生に絶望し、金で女を買い凌辱した後に自殺しようと考えていた。
ホテトルから名美(速水典子)という女がやってきて、村木は彼女に魅せられる。
二年後、死ねなかった村木はタクシーの運転手をしていた。
借金の取り立てが妻に及ばないように離婚していたが、元妻の良子は仕事帰りの村木を待つ習慣が出来ていた。
そんなある日、村木は二年前に出逢った名美を客として乗せた。
海に行きたいという名美は、浜辺に着くと海の中に入っていこうとする。
名美を止めた村木は、自分はあの時の男だと話した。
自分のことを天使だという村木の言葉に揺れる名美だが、あの夜はヤクザに威されていたと嘘をつく。
そして、タクシーに乗ったところがヤクザの事務所であると。
実は、そこは名美の会社の上司、太田(益富信孝)の家であり、妻子がありながら二人は不倫の関係を持っていた。
数日後、太田の妻(中川梨絵)が会社に現れ、名美を怒鳴りまくった。
名美は村木に電話をして、あの夜の続きをしてほしいとせがんだ。
あの時とは変ったという村木に、名美は威されているヤクザは太田という男で、写真や履歴書を取り返してくれと頼んだ。
名美の嘘を信じた村木は太田のマンションに押し入り、事情が分らない太田の妻は、興信所の報告書を渡した。
二年前と同じホテルで村木は名美を待ち、二人は激しく体を合せるが、心は離れていった。
村木は名美の嘘を知るが、それを許した。
名美が目覚めた時、村木は消えていた・・・。


寸評
ラストシーンがいい。このラストシーンのために撮られた映画の様な気がする。
雨の上がった日の朝。無人となった村木の部屋。アパートの前の石段ですれ違う名美と良子。
もんた&ブラザーズが歌う「赤いアンブレラ」に被せるように、志水季里子の良子が口ずさむ「赤い靴」。
ふたりの女に降る情念の桜吹雪。すれ違った後にその石段を駆け上る子供達…。
映画だなあと感じさせた。

劇中で山口百恵の「夜へ…」と、もんた&ブラザーズの「赤いアンブレラ」が流れる。
どうもこの曲を意識して、いやこの曲をモチーフにこの作品が撮られたのだと思う。
まずは村木と名美が思いがけずに再会した夜の、タクシーのラジオから流れる山口百恵の「夜へ…」。

“修羅 修羅 阿修羅 修羅”  “慕情 嫉妬 化身 許して 行かせて”  “繻子 繻子 数珠 繻子”  “繻子 朱色 邪心 許して 行かせて” “あやしく、あまやかな 夜へ”  “やさしく やわらかな 夜へ”  ・・・・・・
名美の心情はまさしくその歌詞が言い当てている。
この阿木燿子の詞の甘美さが一段と高まるのが、別れ話の電話で通話を途中で切られ、その後も延々と喋り続ける名美にかぶせるように延々と続く山口百恵の情感豊かなヴォーカルだった。
長廻しが特徴の一つでもある相米監督だが、それにしてもこのシーンは長い。
一曲分まるまるといった感じなのだが、しかしこの延々と流れる歌がまたいいのだ。
山口百恵は単なるアイドル歌手ではなかったのだと思わせた。

一方、名美と村木のこころが通じ合う埠頭のシーンで魂を揺さぶるのが、もんた&ブラザーズの「赤いアンブレラ」。もんたよしのりのハスキーヴォイスは、ラストシーンでも活かされる。
“はしけ打つ波も つめたすぎる風も”  “あなたの涙よりも 今はやさしい”  “去りゆく人の靴音 そっとはこんでくれるよ”  “雨あがりの風 透きとおる波に”  “あの日の人もいまは 遠いかなたに”  “去りゆく時の足音 ふっとうかんで消えるよ”

良子が時々口ずさんでいた童謡の「赤い靴」は「赤いアンブレラ」と対になっていたんだと納得する。
良子を演じた志水季里子がよかった。
村木のアパートを度々訪ね、季節の衣類やら弁当などを届けているのだが、女の存在に勘づきながらも村木につくすいじらしい女を好演していた。

そして村木が名美にプレゼントする「夜へ…」がはいっているアルバム『A Face in a Vision』のオープニング曲が「マホガニー・モーニング」で第1フレーズ “はらはらと散っていく 花びらの下で・・・”  第2フレーズ “起きたまま見る夢を 当ててみましょうか・・・”  第3フレーズ “階段の踊り場では 子供が遊んでいる・・・”  第4フレーズ “そっと そっとしてあげて マホガニー・モーニング”  と続いている事を知る。
なるほど、だからラストシーンで桜吹雪が舞い、子供たちが石段を駆け上がって行ったのだ。
うーん、これはロマン・ポルノに名を借りた素晴らしい歌謡映画だったのだ!