人生には三度、チャンスが訪れるという。
どんな人の人生にも、ひとしく、
三度のチャンスがあるのだと。
そして、それを、うまくつかめた者だけが、
成功出来るのだという。
チャンスをチャンスと認識し、
うまくつかめた者だけが。
ただいまつかんでおりますのは、栗まん。
本日のおやつです♪
......だとすると、私は少なくとも、そのひとつを、
今日、逃してしまった。
二度とないであろうその瞬間は。
私の手から.....
するすると、抜け出て
消えてしまったのだ。
こちら、土手で一か所だけ群生している、コメツブツメクサ。
いや.....ウマゴヤシ?
それは、畑からの帰り道のことだった。
いつも通りなれた土手の、例の花の咲く手前あたり。
舗装されていない、その砂利道の上に、
私は何か、
植物の蔓か、紐のようなものを見つけたのだった。
しかし、そういったものが土手に転がっているのは、
日常茶飯のことではあるし、
狭い道幅いっぱいにそれがあるなら、
自転車の場合、踏みつけて通るしかない。
.....が。
いざ、そこを通過しようかという直前、
私は気づいたのだ。
「これは蔓でも紐でもない。蛇だ!」と。
『花の咲く土手』では矢車菊。
こちら、後ろに見えるスタンダードな色ものとはまた違って、
淡いブルーがきれい。
そういえば、畑へ行く道すがら、
つい先ほども、考えたばかりだったではないか。
「もうそろそろ蛇が出てくる季節だけど、今年はまだ見てないなぁ」と。
その帰りに、その蛇を見かけるなんて。
これは何かの思し召しではないだろうか。
私はそいつを踏んづける、「すんでのところ」でブレーキをかけ、
急いで自転車を降りると、カメラを構えて、写真を撮ろうとした。
「おお、すげぇ接写のチャンス♪」
いろんな色が......
.....が、カメラがぐいぐい迫ろうというのに、
その蛇は一向に動きを見せず、
私はシャッターを切ることも忘れて心配になる。
「アンタ、大丈夫?具合悪いの?」
.....と。
ほんの少し、そいつは動き、
私は安心して、カメラを構えなおした。
が。
今度は、すぐ後ろにある脇道から、おばさんがひょいと出てきて。
あろうことか、蛇に気づかず、
そのまま踏んづけそうな勢いで進んでくるではないか。
私は再びカメラを放り出し、おばさんに声をかけ、注意を促す。
「あっ、そこそこ、蛇がいるから!踏まないで~!」
.....おばさんは、ものの見事に反応した。
あるんだねぇ♪
「えっ?...えっ!? いや!いやあああああ~っ!!!」
.....と。
この声には、さすがにのんびりしていた蛇も驚き、
目がさめたように、するすると、傍らにあった笹藪に身を隠そうとする。
「ああ......」
私は、蛇とおばさんを助けようとして、
大事なチャンスを失ってしまったのだ。
迫力ある、大接写を成功させるチャンスを。
急ぎ足で歩き去るおばさんを見送りながら、
私はためいき混じりに、笹藪をかきわけ、
下半身だけ、そこから露わにしている蛇の写真を、
どうにかこうにか撮らせてもらう。
せっかく全身、かっこいいところを撮ってあげようと思ったのにねぇ。
まあ、踏んづけられなくてよかったよ。
ちなみにアンタはアオダイショウ?
色や柄に個体差があるっていうから、やっぱりもっと近くで観察したかった。
「人生には、三度のチャンスの前に、
三すくみがある場合があるなんて、思いもしなかった」と。
.....おばさん、私、そして蛇。
今回のことでは、おばさんと蛇はフツーに得をしたのだろうが。
はて。
私はいったいなんだったのだ!?
.....うう。
せめて蛇よ、達者で暮らせよ。