最近、中国の若者の間では、「寝そべり主義」が流行っているらしい。きのう届いた読売新聞のメルマガに、次のようなタイトルの記事があった。
《夢なき社会に中国の若者諦め・・・「寝そべり主義」には政権が危機感[共同富裕の現場から]》
おっ!これは面白そうだ、と思い、早速この記事をクリックしてみた。しかし案の定、画面には「読者会員限定です」の表示が出て、中身を読むことはできなかった。「読みたかったら、読売新聞を購読して、読者会員になってね」ということだろう。
読売新聞は何年か前に購読していたことがある。だがそのときの印象では、この新聞はごくたまに面白い記事を載せるものの、ほとんどが平凡な「政権ヨイショ記事」ばかりで、とても購読を続ける気にはなれなかった。
仕方がないので、私はネットを開き、Wikipedia で調べてみた。「寝そべり主義」はなかったが、「寝そべり族」の項目があり、こんな説明がなされていた。
「寝そべり族、寝そべり主義、躺平主義(タンピンしゅぎ)とは、中国の一部の若者が選択したライフスタイルであり、かつ社会抗議運動である。彼らは社会的圧力による過労(996工作制; 朝9時から夜9時まで週6日間勤務、すなわち割に合わないラットレース)を拒否し、代わりに『寝そべって衝撃を乗り越える』、すなわち低欲望を選び、立身出世や物質主義に対して無関心の態度を取ることを選択したとされる。」
具体的には、家を買わず、車を買わず、恋愛をせず、結婚をせず、子供を作らず、消費は低水準に、といった具合に「最低限の生活を維持することで、資本家の金儲けマシーンとなって資本家に搾取される奴隷となることを拒否する」態度なのだという。読売のメルマガの、その見出しに見られた諦観主義のニュアンスとはだいぶ違っている。Wikipedia に示されているのは、もっと積極的な社会への抗議活動、政権への抵抗運動の姿だった。
おお!中国の若者たちもなかなかやるじゃないか!私はそう思い、中国の若者たちに声援を送りたい気持ちになった。彼らはきっと資本主義に対してだけでなく、中共政府の(欲にまみれた)国家膨張主義に対しても拒絶反応を示し、開明的な国家変革の先兵になってくれるだろう。そんな気がした。
読売のメルマガには「『寝そべり主義』には政権が危機感」の見出しがあったが、たしかに、国家覇権の膨張をもくろむ中共政権の幹部には、こういう風潮の横行は許しがたく、頭痛の種であるに違いない。
思い返せば、私が大学生だった日本の昭和40年代には、大人たちは会社に身も心も捧げて悔いることがなく、毎日の残業をも厭わない社畜の「モーレツ社員」がほとんどだった。日本の高度成長期を支えていたのは、そういう大人たちの存在だった。
私はそういう「モーレツ社員」には到底なれそうにないと思い、(究極の個人事業主である)小説家になることを夢見て何年間か奮闘した。だが、結局それは叶わず、大学院に進学して、学者になる道を選んだ。
私の先輩で、大手商社に就職し、「モーレツ社員」になった人を何人か知っているが、その人たちは停年前に死亡して、今はこの世にいない。
今の日本の若者が中国の「寝そべり族」をどう考えるのか、ーー共感を懐くのか、そうでないのか、私は知らない。また、日本に「寝そべり族」がいるのかどうかも、私は知らない。ともあれ、若者の間に「寝そべり主義」が流行する今の中国の風潮は、悪くはないと私は思うのである。