窪田氏の記事の中で、私がとりわけ気になったことがある。これは疑問に思ったというより、むしろ「むむ、なるほど」と、感心したことだと言ったほうがよい。
それは、窪田氏が次のように述べている条(くだり)である。
「(戦争が)エスカレーションしていく最大の理由は、(指導者に対する国民の)『支持率』である。」
たしかに、ゼレンスキー大統領であれ、敵側のプーチン大統領であれ、勇ましいファイティング・ポーズをとればとるほど、国民の支持率は上昇する傾向がある。(これは実際の統計が示す通りである。)
あのゼレンスキー大統領でさえ、国民の支持率を目当てに対ロ戦を仕掛けた節があると言えなくもない。こんな記事を読んだことがある。
(語っているのは鈴木宗男氏だが、彼はプーチンのシンパとして知られ、「プーチンの太鼓持ち」などと揶揄されたりもする人物である。だから彼の話は話半分に聞いておく必要があるが、その話にも多少の真理は混じっているに違いない。)
「鈴木(宗男) 彼(ゼレンスキー)が冷静に話し合いをすれば、こんなことにはなりませんでした。なぜプーチンさんと話し合いをしなかったのか、私は不思議でなりません。ウクライナとロシアの軍事力は、比較にならないほど大きな差がありますよね。なのに2021年10月23日、ゼレンスキーはウクライナ東部に自爆ドローン(無人攻撃機)を飛ばしました。プーチンさんはビックリして、ただちに10万人の兵をウクライナ国境に配備したわけです。ゼレンスキーがドローンなんか飛ばしてロシアを挑発していなければ、そもそもこんな騒ぎにはなりませんでしたよ。
田原(総一朗) ドローンを飛ばした理由ははっきりしていますよ。戦うという姿勢を見せただけで、17%まで落ちた支持率が90%を超えたんだから。
鈴木 ゼレンスキーは火炎瓶闘争の準備をする市民を止めるどころか、一般市民に『銃を貸し出す。ともに戦おう』と呼びかけています。あの様子を見たとき、『欲しがりません勝つまでは』『一億総玉砕』と言って竹槍で軍事教練し、挙げ句の果てに原爆を落とされた日本の姿を思い出しましたよ。」
(現代ビジネス3月24日配信)
いかがだろうか。それでもゼレンスキー大統領は、私心のない公明正大な指導者だと言えるのだろうか。非の打ち所のない立派な指導者だと言えるのだろうか。
そもそもの話をすれば、政治権力を手にした指導者は、「権力への意志」(ニーチェ)に囚われ、権力の更なる増大を目指す。これはどんな指導者でも同じであり、いわば「政治指導者の性(さが)」のようなものだ。その忌まわしい性の犠牲になるのは、いつも(弱者である)一般庶民だということは、言うまでもない。
窪田氏にしてみれば、ロシアのウクライナ侵攻も、呪うべきそうした「権力亡者の性(さが)」がもたらしたものであり、弱者である多数の一般庶民がその犠牲になって辛酸を嘗めることは、窪田氏にはすこぶる腹立たしかったのだろう。
指導者が勇ましいファイティング・ポーズを取るほど支持率を稼ぐ、という現象が示すように、指導者の権力の増大は、だが一般庶民の願望と一体のものだということも、忘れてはならない。
政治指導者は国民の支持率を稼ぐため、他国との戦争をエスカレートさせる場合があるが、そこには、必ずといっていいほど国民の願望が介在している。窪田氏は「(戦争が)エスカレーションしていく最大の理由は、(指導者に対する国民の)『支持率』である」と書くが、これはそういうことを言おうとしているのである。
鈴木宗男氏が言うように、第二次世界大戦の末期、『欲しがりません勝つまでは』『一億総玉砕』といったスローガンが日本を席巻した。このスローガンを喧伝したのは権力側というよりは、(愛国心に囚われた)一部の国民だった。また、その流布に加担したのは(プロパガンダに踊らされた)一般庶民だった。このことを忘れてはならないのである。
ウクライナの場合はどうなのだろうか。