以下のニュースが伝えるように、目下、国連安保理の決議方式を改革する試みが動きはじめている。
「国連の安全保障理事会でウクライナをめぐる決議案がロシアの拒否権によって否決されたことを受け、安保理の機能不全が指摘される中、今後、常任理事国が拒否権を行使した場合、国連総会で理由を説明することを義務づける決議案が、近く提出されることになりました。」
(NHK NEWS WEB 4月14日配信)
日本もこの決議案の共同提案国になるらしいが、これによって可能になる国連安保理の改革は、では、ゼレンスキー大統領が求めるようなホントの改革になるのだろうか。
去る3月23日、ウクライナのゼレンスキー大統領がリモート国会演説で次のように訴えたことは、まだ記憶に新しい。
「国際機関が機能しなかったことを目の当たりにしたと思います。国連や安全保障理事会でさえも・・・。いったい何ができるのでしょうか。機能するため、ただ議論するだけでなく真に決断し影響力を及ぼすためには、改革、そして誠実さが必要です。」
今回の(拒否権に関する)国連の決議案は、加盟国の3分の2の賛成があれば成立するから、おそらく覆ることはないだろう。
この決議案が賛成多数で成立したとき、では、国連安保理の決議の模様はどういうものになるのか。
たとえば、ウクライナをめぐる国連安保理の決議だが、これは振り返れば、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、ロシア軍の即時撤退などを求める決議案が国連安保理で採決にかけられた。ところが理事国15か国のうち11か国が賛成したにもかかわらず、ロシアが拒否権を行使したため、決議案は否決されたという経緯がある。
今回の拒否権をめぐる決議案が成立すれば、ロシアは拒否権を発動する際に、それなりの「理由の説明」を求められることになるだろう。
そこでロシアは、ウクライナへの軍事侵攻が「正当である」とする理由を述べることになるが、ここでロシア側の言い分は、ウクライナ側の言い分と真っ向から衝突することになる。
問題は、ロシア側の言い分と、ウクライナ側の言い分と、そのどちらが正しいかである。
一般に、A国とB国との間に紛争が生じた場合、それぞれの国が自国の正当性を主張し合って譲らず、どちらの言い分が正しいのか、その判断が難しい場合が多い。
今回のロシアとウクライナの場合も、ロシアが全面的に「悪者」とされているが、ロシア側にもそれなりの言い分はあり、それがどの程度正しいかは、判断が難しい。
(ロシア側の言い分については、元外務省欧亜局局長の東郷和彦氏がサイトPRESIDENT ONLINE に寄稿したネット記事《「NATOに行くのは許さない」 プーチン政権が異常なまでにウクライナに執着する悲しい理由》に詳しい。)
要するに、どういうことになるのか。
ロシアが拒否権を発動する「理由の説明」が正当なもの・妥当なものと認められるかどうかは、結局、国連総会の議決の場に委ねられることになるが、この議決の場は、各国の利害や思わくが複雑に渦まき入り乱れる論争の場になることだろう。この論争の場は、当然ながら国際政治の力学に支配されることになる。
要するに、何も変わらないのだ。国連総会では、「ロシア軍はウクライナから即時撤退すべきかどうか」をめぐって延々と喧々諤々の議論が交わされ、結局は何の決議にも至らない。つまり国連は、「真に決断し影響力を及ぼすための」機関としては、相変わらず機能不全のままなのである。
しかしまあ、国際的な紛争が、武力の争いによってではなく、論争によって、つまり言論の争いによって解決を目指されるようになる点で、少しは前進だと言えるのだろうか。