「なんて、ことを!」
と声をあげて、破壊された携帯に駆け寄ったは、比地通の橘川でした。
携帯は見るも無残に破壊され、情報の復活は無理そうでした。
「おお。すげえ馬鹿力!」
と、僕は感嘆すると、
「さすがに、週末に女性を欠かさないお方だ。力も若いんだね」
と、素直な感想を述べています。
「○○くん、何、のんきなことを。唯一の証拠が無くなってしまったではないか!」
と、青白い顔をした、橘川が、叫んでいます。
「いやあ、お宅のお偉いさんは、粗相が好きだね。僕を殺しかけただけでなく、僕の携帯まで、破壊しちゃうんだから」
と、僕はさらに素直な感想を述べています。
「橘川、うろたえるな。ビジネスシーンでは、よくあることだ。全てはなかったことにするんじゃ。社にも報告してはならん!」
と樺山は冷静に橘川に命令しています。
「しかし、こんなことして、許されるはずがありません。我が社は、そういうところではありません!」
と、営業の矢野が、橘川に迫っています。
「こんなことで、幕引きを図るなんて、汚い!」
と、営業の松田も、素直な感想を述べています。
「おまえら、何もわかっちゃいない。ビジネスシーンというのは、厳しいところなのだ。一瞬の油断が、事態を暗黒に落とすのだ!」
と樺山は、営業の先輩として、若い人間たちに物を教えています。
「橘川さん、携帯、弁償してくれるんでしょうね?もちろん、現物支給はこまりますよ。お宅の携帯なんて、使いませんからね、僕は」
と、僕がのんびり橘川に尋ねると、
「む、無論、弁償させてもらう。しかし、これでは・・・」
と、橘川は青い顔を見せます。
「いいのじゃ、これで。すべてがこれで、解決したのじゃ。わしはこういうやり方で、ビジネスシーンを渡ってきたのじゃ。窮地に陥ってもその度返り咲いてきたのじゃ!」
と樺山は事態の収拾を図ります。
「ほう。おっさん、まだ、何も終わっちゃいねえぜ!」
と、僕が言うと、樺山は、
「もう、終わったんじゃ!これはただの小さな事故だったんじゃ。あとは示談の条件提示で、終了じゃ!」
と、結論を押し付けてきます。
「なるほどね。じゃ、あの写真をつけて、細かいレポートを比地通の社長さんなり、会長さんに送ればいいわけね?樺山さん!」
と、僕は普通の顔をして、しゃらっと話します。
「な、なに?」
と、樺山は表情を変えます。
「だから、あの写真と僕の推理レポートを、あんたの上司に見せりゃいいんだろ?それを望んでいるってことだろ!あんた!」
と、僕が強い調子で、樺山に言うと、
「写真は、無くなったはずでは?」
と、橘川が呆然とつぶやきます。
「さっき、バックで携帯を探し出したとき、写真は、メールで、自宅のPCへ送ってあるよ。あんたが、この写真を無くそうとするのは、目にみえていたからね!」
と、僕は静かに言います。
「ビジネスシーンってのは厳しいところなんだよね。一瞬の油断が命取りになるんだろ?え、樺山さん!」
と、僕が樺山に確認すると、樺山は、歯をくいしばるようにして、くやしさを噛み殺しています。
「それに、今皆が見た通り、携帯を破壊したってことは、あの女の写真が、本物だったということになる。つまり、樺山さん、あんたは、全てを認めた!ということになるんだ!」
と、僕が言うと、皆の目が一斉に樺山常務に向けられます。
「汚いことまでして、自分を守ろうとする、そのしぶとさ。さすが常務にまで、登り詰める男だ。だがよ。人間、やっちゃ、いけないってこともあるんだよな!」
と、僕が言うと、樺山は、くやしさで、一言もしゃべれません。
「あんたは、自分の能力におごっていたんだ!だから、足元をすくわれたんだよ!俺みたいな若造にな!」
と、僕が言うと、樺山は、ぎりぎりと歯ぎしりをします。
「お、ちょうどいい。あんたにお迎えが来たようだぜ!」
と、僕が言います。病室のドアがあき、年輩の警察官が、顔を出します。そして、由美ちゃんを見つけると声をかけます。
「ああ、お嬢ちゃん。あんたの探してた自転車、運んできてあげたよ!」
その声に、由美ちゃんはすぐに駆け出すと、警察官の前に、立ちます。
「ありがとうございます!さっきは、あんな感じだったから、しょうがないのかな、と思ってたの!」
と、由美ちゃんが顔を上気させながら、話すと、その警官は、照れくさそうに、
「いやあ、あれは中央から派遣されてきているキャリア組だからね。ちょっと規則規則で、人間がまだ、できていなくて・・・」
と、言い訳します。
「ここの病院の駐輪場へ置いておいたから、彼に渡してあげるといい!」
と、言うと、にこりとします。
由美ちゃんも、
「ありがとう!警官さんの気持ち、大切にします!」
と、うれしそうに返します。
「警官の方、そいつが、今回の事故の被疑者です。取調べ、まだでしょう?」
と、僕が、警官に促すと、
「何、こいつか!事故した場所から逃走するなど、もってのほかじゃ!ほら、来るんだ!」
と、くやしさの塊になった樺山を強引に引っ立てると、二人ともドアの向こうに消えて行きます。
「いかん。おい、お前ら、あとを追え。あっちの対応が急務だ」
と、橘川は営業の二人に指図すると、僕らの方に向き直り、
「このことは、後日、また、説明させて頂きます。今回は、ほんとうに、うちの人間がご迷惑をおかけして、申し訳なかった。すまん、今日は行かしてくれ!」
と、僕と須賀田課長の方に懇願してから、走るように部屋を出て行きます。
「ガチャ」
と、ドアが閉まると、
「フーっ」
と、僕が息を吐きます。
すると、由美ちゃんが、
「ダーっつ」
と言って、抱きついてきます。
「○○さん、カッコよかったー!あいつを完全にやっつけたわ!」
と、叫ぶと、思い切り首にぶら下がります。
「いやあ、お見事だったよ。さすがに、○○くんだ」
と、沢村も、素直な感想を述べています。
「携帯壊された時はどうなるか、と思ったわ!」
と、これは、まひるです。
「さすがの樺山常務も、一言も返せなかったからなあ。いやあ、○○、さすがだよ!」
と、須賀田課長も、ほめてくれます。
「サイクリストを甘くみるからですよ!」
と、僕は素直な感想を述べています。
「あいつは、サイクリストである僕がぶつかって傷ついていることよりも、自分の車の心配をした。自分のことしか、目に入らない人間になっていたんですよ」
と、僕は素直な感情を述べています。
「仕事もできる。女も手に入る。そんな状況の中で、人間として最も大切なものは何か、わからなくなっていたんだろうな」
と、まるで、樺山常務の鎮魂を図るかのように、僕は素直な思いを口にしています。
「運転手にでも運転させて、湯河原から帰ってくる途中、女に、江ノ島のおみやげが欲しいとか言われたんだろ」
と、僕は事故に至る経緯を推理しています。
「奴は左後部の座席に乗っていた。そして、何も考えずに左後部の扉を開けたんだろう。そこに僕がぶつかったんだ」
と、僕は樺山常務の気持ちになって、事故の原因を話しています。
「結局、女で身を持ち崩したってことさ」
と、僕は結論的に話しています。
「ああいうタイプは、定年後、寂しい老後を送るタイプですよ」
と、沢村がつぶやいています。
「須賀田さんも気をつけた方がいいですよ。わりに近いタイプみたいですから。奥さんと子供、大切にしないと!」
と、沢村が、須賀田に言うと、
「え。俺、独身だけど?」
と、須賀田が返します。
「え?だって、家族のために時間をとりたいとか、なんとか、言ってたじゃ、ないですか」
と、沢村がいい返します。
「ああ。あれは、姉夫婦と同居しているから、そのことだよ。女の子がいるんだけど、これがまた、かわいくてね」
と、須賀田は、不承不承、説明します。
「なあんだ。そういう話か!(笑)」
と沢村は、だまされたような顔をしながら、話しています。
「須賀田さんは、彼女、いないんですか?」
と、まひるが素直に、聞いています。
「いや、それは、そのう・・・」
と、須賀田が子供のように赤くなるので、
「まあ、まあ、そのうち、自分から話してくれるよ。ね、スガさん!」
と、僕が言うと、余計、赤くなる須賀田課長でした。
「須賀田さんって、そういうところ、子供みたい!」
と、由美ちゃんが突っ込むと、皆に笑いが広がります。
久しぶりに明るい空気が、病室に流れ込んでいました。
(つづく)
と声をあげて、破壊された携帯に駆け寄ったは、比地通の橘川でした。
携帯は見るも無残に破壊され、情報の復活は無理そうでした。
「おお。すげえ馬鹿力!」
と、僕は感嘆すると、
「さすがに、週末に女性を欠かさないお方だ。力も若いんだね」
と、素直な感想を述べています。
「○○くん、何、のんきなことを。唯一の証拠が無くなってしまったではないか!」
と、青白い顔をした、橘川が、叫んでいます。
「いやあ、お宅のお偉いさんは、粗相が好きだね。僕を殺しかけただけでなく、僕の携帯まで、破壊しちゃうんだから」
と、僕はさらに素直な感想を述べています。
「橘川、うろたえるな。ビジネスシーンでは、よくあることだ。全てはなかったことにするんじゃ。社にも報告してはならん!」
と樺山は冷静に橘川に命令しています。
「しかし、こんなことして、許されるはずがありません。我が社は、そういうところではありません!」
と、営業の矢野が、橘川に迫っています。
「こんなことで、幕引きを図るなんて、汚い!」
と、営業の松田も、素直な感想を述べています。
「おまえら、何もわかっちゃいない。ビジネスシーンというのは、厳しいところなのだ。一瞬の油断が、事態を暗黒に落とすのだ!」
と樺山は、営業の先輩として、若い人間たちに物を教えています。
「橘川さん、携帯、弁償してくれるんでしょうね?もちろん、現物支給はこまりますよ。お宅の携帯なんて、使いませんからね、僕は」
と、僕がのんびり橘川に尋ねると、
「む、無論、弁償させてもらう。しかし、これでは・・・」
と、橘川は青い顔を見せます。
「いいのじゃ、これで。すべてがこれで、解決したのじゃ。わしはこういうやり方で、ビジネスシーンを渡ってきたのじゃ。窮地に陥ってもその度返り咲いてきたのじゃ!」
と樺山は事態の収拾を図ります。
「ほう。おっさん、まだ、何も終わっちゃいねえぜ!」
と、僕が言うと、樺山は、
「もう、終わったんじゃ!これはただの小さな事故だったんじゃ。あとは示談の条件提示で、終了じゃ!」
と、結論を押し付けてきます。
「なるほどね。じゃ、あの写真をつけて、細かいレポートを比地通の社長さんなり、会長さんに送ればいいわけね?樺山さん!」
と、僕は普通の顔をして、しゃらっと話します。
「な、なに?」
と、樺山は表情を変えます。
「だから、あの写真と僕の推理レポートを、あんたの上司に見せりゃいいんだろ?それを望んでいるってことだろ!あんた!」
と、僕が強い調子で、樺山に言うと、
「写真は、無くなったはずでは?」
と、橘川が呆然とつぶやきます。
「さっき、バックで携帯を探し出したとき、写真は、メールで、自宅のPCへ送ってあるよ。あんたが、この写真を無くそうとするのは、目にみえていたからね!」
と、僕は静かに言います。
「ビジネスシーンってのは厳しいところなんだよね。一瞬の油断が命取りになるんだろ?え、樺山さん!」
と、僕が樺山に確認すると、樺山は、歯をくいしばるようにして、くやしさを噛み殺しています。
「それに、今皆が見た通り、携帯を破壊したってことは、あの女の写真が、本物だったということになる。つまり、樺山さん、あんたは、全てを認めた!ということになるんだ!」
と、僕が言うと、皆の目が一斉に樺山常務に向けられます。
「汚いことまでして、自分を守ろうとする、そのしぶとさ。さすが常務にまで、登り詰める男だ。だがよ。人間、やっちゃ、いけないってこともあるんだよな!」
と、僕が言うと、樺山は、くやしさで、一言もしゃべれません。
「あんたは、自分の能力におごっていたんだ!だから、足元をすくわれたんだよ!俺みたいな若造にな!」
と、僕が言うと、樺山は、ぎりぎりと歯ぎしりをします。
「お、ちょうどいい。あんたにお迎えが来たようだぜ!」
と、僕が言います。病室のドアがあき、年輩の警察官が、顔を出します。そして、由美ちゃんを見つけると声をかけます。
「ああ、お嬢ちゃん。あんたの探してた自転車、運んできてあげたよ!」
その声に、由美ちゃんはすぐに駆け出すと、警察官の前に、立ちます。
「ありがとうございます!さっきは、あんな感じだったから、しょうがないのかな、と思ってたの!」
と、由美ちゃんが顔を上気させながら、話すと、その警官は、照れくさそうに、
「いやあ、あれは中央から派遣されてきているキャリア組だからね。ちょっと規則規則で、人間がまだ、できていなくて・・・」
と、言い訳します。
「ここの病院の駐輪場へ置いておいたから、彼に渡してあげるといい!」
と、言うと、にこりとします。
由美ちゃんも、
「ありがとう!警官さんの気持ち、大切にします!」
と、うれしそうに返します。
「警官の方、そいつが、今回の事故の被疑者です。取調べ、まだでしょう?」
と、僕が、警官に促すと、
「何、こいつか!事故した場所から逃走するなど、もってのほかじゃ!ほら、来るんだ!」
と、くやしさの塊になった樺山を強引に引っ立てると、二人ともドアの向こうに消えて行きます。
「いかん。おい、お前ら、あとを追え。あっちの対応が急務だ」
と、橘川は営業の二人に指図すると、僕らの方に向き直り、
「このことは、後日、また、説明させて頂きます。今回は、ほんとうに、うちの人間がご迷惑をおかけして、申し訳なかった。すまん、今日は行かしてくれ!」
と、僕と須賀田課長の方に懇願してから、走るように部屋を出て行きます。
「ガチャ」
と、ドアが閉まると、
「フーっ」
と、僕が息を吐きます。
すると、由美ちゃんが、
「ダーっつ」
と言って、抱きついてきます。
「○○さん、カッコよかったー!あいつを完全にやっつけたわ!」
と、叫ぶと、思い切り首にぶら下がります。
「いやあ、お見事だったよ。さすがに、○○くんだ」
と、沢村も、素直な感想を述べています。
「携帯壊された時はどうなるか、と思ったわ!」
と、これは、まひるです。
「さすがの樺山常務も、一言も返せなかったからなあ。いやあ、○○、さすがだよ!」
と、須賀田課長も、ほめてくれます。
「サイクリストを甘くみるからですよ!」
と、僕は素直な感想を述べています。
「あいつは、サイクリストである僕がぶつかって傷ついていることよりも、自分の車の心配をした。自分のことしか、目に入らない人間になっていたんですよ」
と、僕は素直な感情を述べています。
「仕事もできる。女も手に入る。そんな状況の中で、人間として最も大切なものは何か、わからなくなっていたんだろうな」
と、まるで、樺山常務の鎮魂を図るかのように、僕は素直な思いを口にしています。
「運転手にでも運転させて、湯河原から帰ってくる途中、女に、江ノ島のおみやげが欲しいとか言われたんだろ」
と、僕は事故に至る経緯を推理しています。
「奴は左後部の座席に乗っていた。そして、何も考えずに左後部の扉を開けたんだろう。そこに僕がぶつかったんだ」
と、僕は樺山常務の気持ちになって、事故の原因を話しています。
「結局、女で身を持ち崩したってことさ」
と、僕は結論的に話しています。
「ああいうタイプは、定年後、寂しい老後を送るタイプですよ」
と、沢村がつぶやいています。
「須賀田さんも気をつけた方がいいですよ。わりに近いタイプみたいですから。奥さんと子供、大切にしないと!」
と、沢村が、須賀田に言うと、
「え。俺、独身だけど?」
と、須賀田が返します。
「え?だって、家族のために時間をとりたいとか、なんとか、言ってたじゃ、ないですか」
と、沢村がいい返します。
「ああ。あれは、姉夫婦と同居しているから、そのことだよ。女の子がいるんだけど、これがまた、かわいくてね」
と、須賀田は、不承不承、説明します。
「なあんだ。そういう話か!(笑)」
と沢村は、だまされたような顔をしながら、話しています。
「須賀田さんは、彼女、いないんですか?」
と、まひるが素直に、聞いています。
「いや、それは、そのう・・・」
と、須賀田が子供のように赤くなるので、
「まあ、まあ、そのうち、自分から話してくれるよ。ね、スガさん!」
と、僕が言うと、余計、赤くなる須賀田課長でした。
「須賀田さんって、そういうところ、子供みたい!」
と、由美ちゃんが突っ込むと、皆に笑いが広がります。
久しぶりに明るい空気が、病室に流れ込んでいました。
(つづく)