蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

存在の希薄

2013年06月12日 | つれづれに

 「父の日」が近付くたびに、今日まで自分が父として祝われるに足りる生き方をして来たのかと、ふと慙愧の念に駆られる。ショッピングセンターの「父の日」特売のチラシに、「2980円のポロシャツ1000円!」などと出ていると、「ああ、やっぱりな」と「母の日」の特売との歴然とした格差を思い知らされる。
 「これって、一種のセクハラだろう」と空しく遠吠えしながら、台風の余波の蒸し暑い不快指数の中で、洗濯物を干していた。「父の日」とは、父が反省するための日かもしれない。(呵呵!)
 生理学的にも、命を宿した雌が身体を張って育み、雄は獲物を狩って外敵から種族を守りながら時々種付けするという太古の時代から、母と父の存在感の違いは否定しようがない。近頃頑張る「イクメン」たちが、この地位を引き上げていってくれることだろう…多分。歳をとって、既にもう娘たちの役に立つ場も少なくなってしまった…。

 横浜の長女に刷り込まれたことが二つある。1つは旅、もう一つは本。
 アジアの旅にのめり込み、インドネシア・バリ島にハマったきっかけは、この娘の先駆けだった。ジャワ島の世界最大の仏教遺跡・ボロブドゥールやプランバナン、バリ島のベサキ寺院、タイ・バンコックの暁の寺ワット・アルン、水上マーケット、アユタヤの廃寺…長女の旅の後追いで、アジアの旅にのめり込んでいった。食わず嫌いでいた海外旅行への道は、こうして開かれていった。
 「阪急電車」「県庁おもてなし課」「空飛ぶ広報室」…近年映画化され、いまドラマが進行している作品の著者・有川 浩(「ありかわ ひろ」と読む。「ひろし」と呼んで男と思っている読者も少なくないらしいが、れっきとした女流作家である。)長女の家で勧められて読んだ「図書館戦争」に始まる様々な分野の作品群を全て読みつくし、「ブックオフに持っていかない本」として書棚に並んでいる。 
 「自衛隊オタク」を公言してやまない作風は、時として殺人と破壊の集団・自衛隊賛美と叩かれることもあるようだし、憲法を改正して軍隊と認めようとする昨今の政治家の動きに利用されかねない危惧は消しがたいが、ここでは深くは追うまい。勿論、「60年安保闘争」の戦士のはしくれのなれの果てとしては、憲法改悪反対・第九条尊重の立場を堅持している。
 災害救援は既に自衛隊抜きでは語れないし、全ての無駄を排して設計された武器・兵器・航空機・艦船は、確かに機能美の極致にある。取りあえず「災害救援の一企業」の人間ドラマと自分を騙し、大いに楽しんでいる。
 「植物図鑑」「阪急電車」のほのぼの感はたとえようがないし、「三匹のおっさん」の痛快な世界は快感でさえある。「空の中」「海の底」「塩の街」というファンタジックなSFの世界が、実は一番のお気に入りであり、唯一好きな作品を挙げよと言われれば、ためらいなく「塩の街」と答える。
 本当は、七十路で読む本ではないのかもしれず、もっともっと若い世代向けの作品なのだろうが、何故か我が家は進化しかねている部分があるのか、ためらいなく楽しんでいる。旧冬、アメリカから帰国した次女のお供で雪の札幌ドームに「嵐」のライブを聴きに行ったし…「だから、同世代の人と話題が合わないのよね~」と家内が言って、Skypeの向こうで次女の爆笑をかった。

 何はともあれ、もう残りわずかな歳月を、希薄な存在感の「父の日」を慙愧の念でいたぶっていくことにしよう。
               (2013年6月:写真:有川 浩「塩の街」角川文庫)

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