蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

九博の杜から

2011年04月03日 | つれづれに

 早く書かなければと思いながら、キーボードに向かう気持の高ぶりが確かめられないままに1ヶ月が過ぎていった。それほどに、思い入れが強いテーマだった。
 九州国立博物館環境ボランティア第2期の任期が間もなく終わる2月末、1冊の小冊子が刷り上がった。「~周辺の自然との共生をめざす博物館~九博の杜から」(九州国立博物館 環境ボランティアから、市民目線のレポート)と表題を掲げたA4カラー刷り8ページの冊子である。およそ30人の第2期環境ボランティアの中から8人の有志が編集チームを組み、ほぼ8ヶ月掛けた労作である。

 地味な裏方の仕事・ミュージアムIPM(総合的有害生物管理)に携わる環境ボランティア…地球環境に配慮し、化学薬剤による燻蒸に頼らず、市民の目で隈なく館内を見守りながら、温度・湿度・埃・黴・虫などから貴重な文化財を守る…そこに生かされるのは、様々な人生経験を積んだ仲間達の、個性的な研ぎ澄まされた五感である。そして、第2期環境ボランティアに課せられたテーマは、そのミュージアムIPMについて広く一般市民に知らしめる為の外部への発信だった。
 昨年2月、館内活動を紹介する冊子「みどりの広報」を刊行し、好評を得た。その編集後記に、こんな一文を寄せた。「環境ボランティア全員のIPMへの熱い思いを寄せ合って小さな風を起こし、それが草の葉をそよがせ、木々を揺すり、やがて地球上に隈なく吹き渡って欲しい…そんな祈りを籠めて、この『みどりの広報』を作りました。私達の思いは届いたでしょうか。」

 第2作は、館周辺の自然環境に目を移すことにした。私が担当した一部、32種類の生き物の写真(その28枚は私が撮った)を並べた2ページに及ぶ図鑑「いのち育む豊かな里山・九博の里山に息づく生物より」の言葉を引用しよう。
 「かつてここは、天神の杜を包む豊かな里山でした。東に宝満山、西に四王寺山が控え、これらの山々の緑豊かな樹林には、数多くの野生生物が生息・生育しています。それらを背景にした九博周辺は、シイやクスノキ、竹林、調整池の水辺空間などがあって、餌も豊富な上に外敵から隠れる場所もあり、生き物の生息には非常に良好な環境が整っているのです。
 ベニイトトンボやオオルリ、キュウシュウムササビ、ニホンアカガエルなど、貴重な生き物が生息し、北側の湿地にイノシシが出没したり、裏山でノウサギを見かけたり、夕暮れの車道を小走りに駆け抜けるタヌキの姿に接することもあります。その豊かな自然をずっと守り続けたい……。ここに紹介するのは、ほんの一部です。九博に足を運んだついでにちょっと足を伸ばし、みどりの風に吹かれながら、ぜひ葉陰に息づく数々の命の息吹を感じ取ってみてください。」
 貴重なオオルリの写真は、家内のネット仲間の森田さんから、カワセミ、キビタキ、キュウシュウムササビの写真は、九州環境管理協会からそれぞれ提供いただいた。

 波乱の8ヶ月だった。志半ばにして仲間の一人が急逝し、巻末に追悼の一文を入れた。追い込みの段階で、編集方針や文言で館側との激しい応酬があって、挫けそうにもなった。殆どの仲間が傷つきながらも、励ましあって刊行に漕ぎ付けた。だからこそ、思い入れは一段と強い。この冊子を置き土産として、3年間のボランティア活動を閉じ、仲間の多くは去っていく。
 迷い、悩んだ挙句、もうしばらく一年更新の登録ボランティアとして残ることにした。3年前の情熱はかなり冷めてしまっているが、今度こそ誰の為でもなく、自分の為だけに楽しんで行こうと思う。何故ならば、「おらが町の博物館」だから。そして、何よりもこの博物館が好きだから。第3期の皆さんが、又新たな視点でこの活動を引き継いでいくことだろう。

 「九博の杜から」の巻末をこんな言葉で閉じた。
 「いつの日か、九博の建物そのものが大きな一本の木立となって、周囲の豊かな樹林の景観の中に溶け込むことを期待しながら、環境ボランティアの新たな第一歩を踏み出したいと思います。」
             (2011年4月:写真:「九博の杜から」表紙)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿