蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

乗せられて、春立つ

2012年02月05日 | つれづれに


その1、願い事を思い浮かべる。
その2、今年の恵方は「北北西」の空を向く。
その3、恵方巻きを「がぶりッ」とかじる。
その4、黙ってモグモグ食べる。
その5、食べ終わるまでしゃべらず、願い事を唱える。
   *これが出来れば、願い事がきっと叶う!…かも?

 ご贔屓の鮨屋で求めた「恵方巻き」に添えてあった言葉である。「かも?」という微妙な逃げが打ってあるところが心憎い。比較的近年まで、九州の節分にはなかった習慣である。起源には色街のやや卑猥なものから、商いに絡むものや神事に到るまで諸説あるようだが、大阪に始まり、鮨屋や海苔業界の販売促進に便乗した某コンビニの戦略で、全国に広まったという辺りが真相のようだ。
 十数年前に広島で初体験した。その年の方位に向かって、黙々と巨大な巻き寿司にかぶりつく姿は決して敬虔ではなく、むしろ滑稽…そして確かにいささか卑猥でもある。笑いながらも、いつの間にか鮨屋に予約に走るのが毎年の習慣になった。
 コンビニの戦略大当たりで、この日のこの鮨屋も通常の営業を全て断って、ひたすら恵方巻きを作り続けてもおっつかない盛況だったという。美味しくて、少しばかりユーモラスで、こんな乗せられ方なら悪くない
 顎が外れそうな太巻きを一本、満腹になるまでのボリュームを食べ終わるまで黙っているのはつらいし、異様でもある。「食べ残したら、一生黙ってなきゃならないよ」ということになっても困る。だから我が家では、一口だけ食べ終わるまで黙っていることにしようと、妥協案を採用している。ともすれば欲張りがちになる願い事を、一口分に凝縮して黙々と食べ、今年も無事節分の行事を終えた。

 直前、冬将軍が観測史に残る過酷な太刀を振り下ろした。この冬一番の寒波が列島を襲い、北国で大雪の被害が深刻となった。ここ太宰府でも昼前に氷点下4・3度を記録、降り積んだ雪がアイスバーンとなって、二日間家に篭る羽目になった。蹲(つくばい)に滴る水が直径5センチ、長さ18センチのツララに育ち、カーポートの軒からも25センチのツララが下がった。雪が降り、翌朝は何もなかったのに、束の間の日差しで雪が解けかかったところに昼間の寒気が襲い掛かってツララを育てた。少し寒が緩んだ立春にも解けることなく、ようやくその翌日になって蹲が本来の雫を滴らせ始めた。
 時として「福岡の豪雪地帯」と揶揄される太宰府、その又少し山手に建つ我が家。40年ほど前に越してきた頃は、ひと冬に何度か20センチを超す積雪があった。雪の中を登山靴や長靴を履いて駅まで歩き、ビジネス・シューズに履き替えて福岡市内に出ると、雪が全くない街の上に青空が広がっていてからかわれたりする。我が家に到る途中、僅か30メートルほどのゆるい坂道があり、たったそれだけを越えるために、タイヤチェーンが離せないし、酷い時にはタクシーに断られたりもする…それが我が蟋蟀庵の立地である。

 満開の蝋梅を雪が覆い、盛りを過ぎた花びらから次第に輝きが失われていく。3週間以上甘い匂いを漂わせていた水仙も雪で伏せた。紅梅白梅の蕾はまだ固く、名のみの春は立ったけれども、これから1ヶ月は寒さの底で冬篭りの日々が続く。「春になったら起こしてくれ」というお馴染みの口癖のひと言で、今夜もベッドに逃げ込むことにしよう。

  待ち焦がれている「早春賦」の歌声も、今年はまだ聞こえてこない。
                 (2012年2月:写真:恵方巻き)

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2 コメント

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恵方巻き (冬眠中の熊さん)
2012-02-06 23:23:35
知らなかったです。
その2とその3はOK?でしたが、
半分にしてがぶって食べ、
おまけに「早く風邪が治りますように」なんて唱えてしまいました。
その後も食べながらペチャクチャ・・。
予防接種もしたのに治りが悪いのはその所為かしら?と。

因みに夫婦2人になった我が家の豆撒きは、
福は内!はお口に中にしています。
お掃除が面倒なので~ へへ
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豆まき失念! (蟋蟀庵ご隠居)
2012-02-08 10:24:59
冬眠中の熊さんへ

 風邪、お大事に。春が待ち遠しいですね。
 恵方巻きは無事しきたり通り済ませたのですが、コメントいただいて、ハッと!「あ、豆まき忘れた。」頭の中だけは、紛れもなく春が来ているようです。(笑)
 今日も小雪が舞って、太宰府は大雪・風雪注意報が出ています。さあ又、冬眠の穴にはいろう!
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