蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

彼岸花

2018年09月19日 | 季節の便り・花篇

 浅いうたた寝から覚めた。観ていたテレビ映画の筋は全く分からなくなっている。週3回40分のリハビリはけっこうハードで、終わった後は、よくこんな有様になる。
 午前中のリハビリを終えた後のお昼は、昔懐かしいマルタイの棒ラーメン……私たちの世代にとって、受験勉強の夜食はいつもこの棒ラーメンだった。真冬の深夜、エアコンもない部屋で丹前を頭からかぶり、何も入っていない棒ラーメンを啜る。「丹前」も、もう今では死語になった。ネットには綿入れの褞袍(どてら)と出ている。「褞袍」という言葉さえが死語である。
 そんな半世紀以上昔の食べ物が、いつの頃からか再販されるようになった。黄色いボンカレーと並ぶ日本のファーストフードのはしりかも知れない。チャーシュー、もやし、ゆで卵、紅ショウガ、海苔を載せ、いりごまと胡椒を振って……あの頃に比べ、なんと贅沢なことだろう!

 5時半過ぎに目覚める。外はまだ薄明。ヒグラシも、もう鳴かない。布団を剥ぎ、退院以来愛用している抱き枕を下におろして、ベッドの上で30分の筋トレ・ストレッチで身体を目覚めさせる。6時25分からテレビを見ながら、椅子に坐ったままでラジオ体操を15分。
 今週から、朝のリハビリ・ウォーキングの距離を延ばした。かつて6年間自治会長を務めた我が自治区一周から、隣りの自治区まで拡げて30分で3000歩。小さな山や谷を拓いた団地だから、緩やかな坂道もある。杖を突いて1ブロックゆっくり歩くことから始めて1ヶ月、もう杖なしで速足にも耐えるようになった。坂道も問題なく、唯一階段の上りに左足の力不足を感じる程度である。ただ、何故か座る姿勢が馴染まないのか、立ち上がって歩き始める数歩、鼠蹊部と左の一本傷の上辺りに疼痛が出る。
 
 一か月を過ぎた今日、理学療法士による回復状況のチェックの後、医師に診断を仰いだ。
 理学療法士の書いたデータ―があまりに達筆(?)過ぎて、医師が「読めん!」と嘆きながら読んでいるのが可笑しかった。耳で聞きながら説明を受けた私の方が解るようで、翻訳すると、こうなる「股屈曲、伸展、外転、外旋、膝屈曲、伸展、足背屈等が改善、筋力も増強、歩行力も向上している。但し、端坐位からの起立動作及び歩行初期2~3歩に軽度の疼痛がある」……こうして、もう暫く(1ヶ月?)リハビリを継続することになった。
 まだ少し不安があったから、どこかホッとしている自分が居た。6年前の左肩腱板断裂修復手術は、5つ孔をあけただけの内視鏡手術だったのに2ヶ月入院し、その後4か月リハビリに通った。今回の方が遥かに傷は大きいし、手術内容もも大掛かりである。僅か1か月半で解放される筈がない。
 リハビリの目標欄には「山道を歩けるようになりたい」と書かれている。医師が言う「山道は石がごろごろしているし、でこぼこしているから、あまり歩かん方がいいですよ」
 いやいや、私は諦めない!「もう暫く、我慢します」と言って帰ってきた。来月には、秋風に吹かれながら御笠川沿いの道を歩いて観世音寺を訪ね、自信がついたら「野うさぎの広場」への山道を辿るつもりでいる。

 厳しい残暑が続き、今日も31度を超えるという。秋のお彼岸が近く、庭のあちこち20本の白い彼岸花が立った。ネットによれば、正しくはシロバナマンジュシャゲ(白花曼珠沙華)というらしい。シロバナヒガンバナとも呼び、ヒガンバナの雑種とされている。定説ではヒガンバナとショウキラン(ショウキズイセン)が自然に交配されて生まれたとされている。日本のヒガンバナは不稔性(タネが出来ない)なので、稔性(タネが出来る)のある中国原産のコヒガンバナが親とも言われている。
 花の姿はヒガンバナに似ているが、シロバナマンジュシャゲのほうが、花びらの反り返りや縁のフリルがゆるい。秋に花が咲いて、冬の間に葉が生長し、初夏には葉が枯れ、秋に花が咲くまで休眠する。不稔性で基本的にタネは出来ない……まだまだ知らないことが多いと思い知った。

 3鉢の月下美人に、合わせて9輪の蕾が育っている。多分、今年最後の花になるだろう。酷暑の中で逞しく葉が伸び、ひとまわり以上大きくなった。形見分けで譲ったY農園のご自宅でも、きっと同じタイミングで幾つかの蕾が育っていることだろう。

 この気怠さ、リハビリ疲れだけではなく、痛めつけられた猛暑の祟りでもあるのだろう。湿気を膨らませて、雨が近付いている。
                      (2018年9月:写真:白花曼珠沙華)